学会報告-14

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最後です。

国立研究開発法人産業技術総合研究所(ながいっ!←産総研と略称されます)の先生が、乳酸菌摂取による抗炎症作用についてお話をされました。

大腸は嫌気度が高いため、ビフィズス菌やクロストリジウム、バクテロイデスなど、酸素があると生存できない「絶対嫌気性菌」と呼ばれるタイプの細菌が圧倒的に優勢です。一方、空腸を含む上部消化管は嫌気度も低くなりますので、酸素があっても無くても生存する事のできる「通性嫌気性菌」と呼ばれるタイプの細菌の割合が多くなります。
乳酸菌もその一つで、大腸においては圧倒的に少数派である彼らも、小腸では比較的存在感があります。
また一方で、腸管免疫は大腸よりも小腸において発達しており、リンパ節に相当する「パイエル板」も空腸から回腸にかけて多く存在します。小腸粘膜組織には数多くの免疫細胞が存在するだけでなく、抗菌物質を分泌する「パネート細胞」や「自然リンパ球」など、「自然免疫」に関与する細胞も数多く存在します。
「空腸」はその名が示すように、一見すると内容物が無く、いつも「空っぽ」な状態に見えますが、実際には空腸こそが食物の消化吸収の場ですので、内容物の流動性が高く、固形物となって留まる事がないために、あたかも空っぽのように見えるに過ぎません。
このような場所に高度な免疫システムが存在している点がまさに重要で、上部から流れてくる流動性の高い物質群に対してこそ免疫システムが鋭敏に働いている可能性を示唆するものだと考えられます。

食物に含まれる物質の中でも免疫系に認識されやすいものが、細菌やウイルスです。特に自然免疫系はこれらを「生得的」に認識するように発達してきました。樹状細胞のような免疫細胞や吸収上皮細胞などには、これらの細菌やウイルスを認識するトールライクレセプター(TLR)と呼ばれる受容体が存在しています。TLRにはいくつかの種類があり、それぞれが、例えば菌体構造物やDNA、あるいはRNAなど、細菌やウイルスを構成する成分を生得的に認識する能力を備えています。TLRがこれらの物質を認識する事によって、その後の免疫反応が開始されます。

以上は中山センセの解説であります。以下、産総研の先生のお話。

産総研の先生のお話では、樹状細胞などによって乳酸菌が貪食される事によりインターフェロン-β (IFN-β)が高度に産生され、その後の抗炎症作用が誘導される、との事でした。

メカニズムとしては、乳酸菌が樹状細胞に取り込まれた後、乳酸菌細胞質中に存在する二本鎖RNAが樹状細胞エンドソームのTLR3を刺激し、IFN-β産生を誘導する、との事でした。TLR3を人工的にノックアウトしたマウスでは、IFN-β の産生は見られませんでした。
この誘導能は、リステリアなどの病原菌や、或いはバクテロイデスのような大腸に存在する菌よりも乳酸菌において有意に高かったそうです。

従来はTLR3を刺激する二本鎖RNAはウイルス由来のものが主体である、との認識が一般的であったようですが、今回のお話によれば、とりわけ乳酸菌菌体中の二本鎖RNAが多いのが特徴的だという事から、乳酸菌による刺激が主体では?とも考えられます。また、乳酸菌由来二本鎖RNAのIFN-β 誘導能は多くの種類の乳酸菌に共通してみられるのに加え、死菌体でも同じように生じる事から、食品由来の乳酸菌による抗炎症作用の誘導が大いに期待されます。

また、お話の中で、パネート細胞が産生する抗菌物質である「α-ディフェンシン」は乳酸菌やビフィズス菌に対しては抗菌効果がない、との事でした。これも一部の人々にとっては「あまりにも都合の良いお話」に聞こえるかも知れませんが、これまで得られてきたその他の多くの情報などからも、まず本当だと思います。要するに、「ヒトと善玉菌との共進化」の証拠が近年続々と蓄積されつつある、という事を意味しているのだと思います。

生菌死菌を問わず、食物由来の菌体内容物が免疫刺激の本体であるという事から、これはバイオジェニックスのお話そのものであると、センセは大いに感激した次第でありました。

今回の腸内細菌学会では、女子高校生による発表もありました。はきはきとした発表で、とても好感が持てました(翌日の日経新聞にも写真入りで載ってました)。
「やっぱりJK は良いのお~~~。」と、センセも感慨を新たにした次第です・・・。

ではまた近々!


学会報告-13

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続きです。

順天堂大学の先生が、「多発性硬化症」と腸内細菌並びに腸管免疫との関係についてお話されていました。
多発性硬化症は自己免疫疾患の一つで、脳や脊髄など、神経が集族する部位のあちこちに「しこり」のような硬い部位が生じ、視力の低下、四肢のしびれ感、運動麻痺、などを引き起こす病気です。病理的には、神経細胞の軸索を覆っている「ミエリン」とよばれる「絶縁カバー」に損傷が発生して生じると考えられています。
ミエリン鞘(ミエリンしょう=ミエリンカバー)に損傷が生じるメカニズムとしては、リンパ球による自己破壊が考えられています。自分のリンパ球が自分の組織を破壊するので、自己免疫疾患に分類される病気です。

多発性硬化症の原因はよく分かっていません。ウイルスや遺伝子の関与も指摘されていますが、北米やオーストラリアに患者が多く、これらの国からの帰国子女などにもしばしば発生が見られるので、食生活を含む西欧型の生活習慣に何らかの原因があるのでは?との見方も強くあります。

発表では、無菌マウスと通常マウスを用いて腸内細菌との関連を調べていました。両マウスを比較した結果、無菌マウスの方が病態が軽く、通常マウスでは重くなる事が分かりました。また、通常マウスに抗生剤を投与して腸内細菌叢を排除すると病態が軽くなる事が分かりました。以上から、多発性硬化症発生の病態に腸内細菌が関与する事が分かりました。
多発性硬化症患者の糞便を調べたところ、クロストリジウム属やバクテロイデス属の菌が減っている事が分かりました。これらの菌は大腸で食物繊維を分解~資化して短鎖脂肪酸を産生するので、患者に食物繊維を多く含む食事や短鎖脂肪酸そのものを与えたところ、病態の改善が見られた、という事でした。
病態改善のメカニズムとしては、酪酸などの短鎖脂肪酸によって制御性T細胞(Treg)が誘導され、自分のミエリン鞘を攻撃するリンパ球を抑制した結果、病態の改善に繋がったのでは?との考えでした。
今回の結果からは多発性硬化症の原因と腸内細菌との関係については情報が得られませんでしたが、少なくとも病態に関与している可能性が示唆されました。


次は、森永乳業の演題をご紹介します。
彼らは母乳とビフィズス菌の「親和性」について、お話されていました。

ヒトの腸管から検出されるビフィズス菌の種類はおよそ10種類程度ですが、個人的な差もさる事ながら、乳児と大人の間でも種類の差が見られます。
乳児由来のビフィズス菌と大人由来の菌とを母乳中で培養したところ、乳児由来のビフィズス菌は母乳中で良く生育した一方で、大人由来の菌は生育できなかった、という事でした。また、動物由来のビフィズス菌もまた、ヒト母乳中では生育できませんでした。
原因の一つとして、乳児由来ビフィズス菌の「リゾチウム耐性」をあげていました。

リゾチウムは細菌の細胞壁を溶解する酵素で、特にヒトの母乳中に多く含まれています。動物由来のビフィズス菌にはヒトのリゾチウムに対する抵抗性がほとんどなく、その結果、これらの菌は母乳中では生育できないと考えられました。
一方で、ヒトの大人由来のビフィズス菌は、ヒトリゾチウムに対する抵抗性を有しておりました。にもかかわらずヒト大人由来ビフィズス菌が母乳中で生育できない理由として、細胞壁溶解作用以外のリゾチウムの抗菌作用が関与しているのでは?との考えでした。

学会報告-12

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喜源バイオジェニックス研究所のホームページ(http://www.kigen-biogenics.com/)でも紹介しておりますが、近年、クロストリジウム・ディフィシル菌による偽膜性腸炎に対する糞便移植治療が脚光を浴びています。8~9割に及ぶ著効率に加え、何といっても他人の糞便をそのままに丸ごと投与するというダイナミズムに驚かされてしまいます。

そこで、という訳で、「腸内細菌が関与する事が明らかな他の疾患にも応用できないか」とばかりに、いくつかの臨床研究が行われました。そのうちの一つが潰瘍性大腸炎に対する応用です。
今回は、潰瘍性大腸炎に対する糞便移植の応用に関して、慶応大学と順天堂大学の二つの結果が発表されました。

慶応大学では、難治性の潰瘍性大腸炎患者並びに機能性胃腸症患者それぞれ10例に糞便移植を行いました。移植する糞便は患者の配偶者、或いは2等親内の家族のものを用い、大腸内を1回洗浄の後に内視鏡下に投与する、というものでした。その結果、潰瘍性大腸炎の全てで無効、機能性胃腸症患者では10例中6例で著効、という結果となりました。

順天堂大学では、実質17例の潰瘍性大腸炎患者に対してAFM療法と呼ばれる抗生剤治療を行い、患者の腸内細菌叢を排除した後に2等親内の家族の糞便を移植する、という方法を用いました。その結果、17例中14例が有効性を示す結果となりました。
この時、抗生剤投与によってほとんどの患者においてバクテロイデス門の菌が一旦消滅しましたが、糞便移植の結果、バクテロイデス門の菌が再び戻った患者では大腸炎が回復した一方で、バクテロイデス門の菌が戻らなかった患者では効果が無かった、という事でした。

両者の結果をすなおに読み解くと、

1. 骨髄移植と同じく、受け取り側の菌叢を排除しておく方が効果がある。
2. 炎症が酷い場合、糞便移植には限界がある。
3. バクテロイデス門の菌の存在と潰瘍性大腸炎との間には、何らかの関係がありそうだ。

という事でしょうか。
ただし、HPでも指摘したように、バクテロイデス門の菌=バクテロイデス属の菌ではなく、バクテロイデス門の菌>バクテロイデス属の菌、という関係ですので、この点くれぐれもご注意下さい。


学会報告-11

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みなさまこんにちは!ご機嫌いかがですか?私はあいかわらずご機嫌です。
「喜源の社長はいつもご機嫌!」・・・って、相当使い古されたフレーズですけど・・・。

いよいよ梅雨も本番の日々。
九州は豪雨、その他の西日本は例年通りの降雨、といったカンジですが、坂城を含めた関東甲信越では、少なくとも今のところ、降雨日も降雨量も少なく、ダムの貯水量も大きく減少しています。

坂城町を含めた東信州地域は日本でも有数の小雨地帯で、年間平均降雨量は1,000mmに達しません。近くの塩田(しおだ)地域には数多くの溜め池がありますが、これらは昔のお百姓達が米作のために苦労して掘ったものです。標高が比較的高いうえに内陸で、海もなく、これに小雨という条件が加わりますので、夏は昼間の温度は高くなりますが、湿度が低く、蚊や蝿、ゴキブリも少ないので、夏場を快適に過ごすにはとても良い地域です。ただし、真冬の寒さは半端じゃないけれど・・・。

さて、6月9~10日にかけて東京大学で行われた第20回腸内細菌学会に参加してきましたので、ご報告いたします。
この時期は学会月間みたいなもので、日本全国いろいろな所でいろいろな学会が開かれます。例年ですと、この時期の学会=雨=傘をさしての移動、というのが通例ですが、今年は東京も雨が少なく、比較的楽に過ごすことができました。
昨今の腸内細菌ブームを反映して満席が予想されましたので、我々一行(中山センセ、岡田研究員、菅佐原講師)は開場30分前に早々と到着。良い席を確保する事に成功しました。
シンポジウムを含めて各種演題には興味深いものが多く、「乳酸菌~消化管~健康」という伝統的な三題噺の「頑健性」があらためて担保されたかな、という感想を持ちました。以下、シンポジウムの演題を中心に、各個にご紹介していきます。

九州大学の先生が、腸内細菌叢とストレスとの関係についてお話されました。

腸管には多くの神経が分布している事から、精神活動と腸との間に密接な関係がある事は昔から推測されておりました。試験前などに見られるように、ストレスによって腸管の蠕動運動が急激に高まって下痢をおこしがちになるなど、日常的にも体感的に知られている現象です。
一方で、逆に、何らかの経路を通じて腸管からの情報が脳に伝達され、精神活動に影響を及ぼしている可能性が、近年数多く指摘されるようになってきました。

今回は、はじめに、無菌マウスと通常のマウスのストレス応答を比較した結果が報告されました。方法は、マウスを狭い空間に固定する事によって発生する「拘束ストレス」に対する応答を比較するものです。
実験の結果、無菌マウスではコルチコステロンなどのストレス反応性ホルモンの分泌が通常のマウスに比べて有意に亢進。このような無菌マウスにビフィズス菌を投与~定着させると、ストレスホルモン分泌が抑制された、という事でした。一方で、ビフィズス菌の代わりにバクテロイデス菌を投与した場合にはナンの変化もありませんでした。また、このようなビフィズス菌に対する反応は若い個体で生じ、ある一定の週齢に達したマウスに同じようにビフィズス菌を投与してもほとんど反応しなかった、という事でした。
この結果をすなおにヒトに当てはめますと、年少時に適切な腸内環境を整える事により、その後の成長に伴う外部からの様々なストレスに対応できる素地が作られる、という事です。

また、別のモデルを用いた実験では、やはり無菌マウスの「落ち着きの無さ~多動性」が指摘されました。無菌マウスでは「血液脳関門=Blood Brain Barrier=BBB」がルーズである一方で、これに酪酸菌を投与するとBBBが密になり、健常化する、という事でした。脳と腸管との関係においても「酪酸」の「バリアー健常効果」が指摘されていたのが、大変興味深いところでした。