ちょっと研究内容 の最近の記事

学会報告-18

| | トラックバック(0)
昭和40 年代:時代と音楽-22」でご紹介したボサノバの大御所、ジョアン・ジルベルト氏が昨日亡くなられたそうです。
ご冥福をお祈り申し上げます。
因みに、元妻のアストラッド・ジルベルトさんは未だご健在とのこと。
何よりです。

さて、善玉菌の代表格であるビフィズス菌ですが、日本人は世界でも有数のビフィズス菌保有率を誇る民族である!という事実をご存知の方は少ないかと思います。
これに関しては数年前に発表された早稲田大学の論文が有名ですが、今回は森永乳業さんのデータが発表されてました。それによると、

1) 日本人約1000 名に対して腸内細菌叢解析と食事調査を行った。
2) 同時に、乳糖分解酵素の発現に関与する遺伝子座の解析を行った。
3) その結果、調査した日本人全員が乳糖分解酵素発現型であった。
4) 乳製品の摂取量とビフィズス菌の保有率との間に相関が見られた。

とのことでした。
すなわち、日本人は乳糖(ラクトース)を分解する能力が低いため、乳糖はそのまま大腸に至る結果、ビフィズス菌に利用され、ビフィズス菌が増える、という仕組みです。
日本人の間で乳製品をよく利用するヒトはそうでないヒトに比べてビフィズス菌の割合が多くなる、というおまけのデータまで揃ってます。


以下、2016 年に発表された早稲田の服部正平教授らのデータに基づいて、お話していきます。有名な「日本人の腸内細菌叢には海藻を利用する細菌が住んでいる!」という話の源となった論文です。

お焦げとガンについて-11」でもご紹介しましたが、北欧の連中って、半端なくめちゃくちゃ牛乳を使用します。で、当然ながら、ほとんどの人が乳糖分解酵素を持ってます。で、その結果、乳糖は人間様に利用されてしまい、大腸まで到達しないので、ビフィズス菌の数は日本人に比べて非常に少ない・・・。

ならば、というので、日本以上に穀物や豆類を多く食べるペルーやアフリカのマラウイの人たちもまたビフィズス菌が多いかというと、そんなこともない・・・。

一般的に、日本人の細菌叢は炭水化物を利用して酢酸と水素を作りがちである一方で、他国の人々の細菌叢はDNA 損傷の修復に関するものとメタン産生に関するものが多い、ということでした。
そのことから、日本人の腸内環境は非炎症的で、他国の人々よりも相対的に「良い」環境である、との結論でした。

ただし、細かく見ていくと、食事内容と腸内細菌叢パターンとの相関はあまり見られない点や、食事内容~文化~地理的に大きく異なる中国とアメリカの腸内細菌叢パターンが似ているなど、さらには同様に大きく異なる日本とオーストリア(オーストラリアではありませぬ)とが比較的似ているなど、いまだなにがそうさせているのか、このシリーズの最初に述べた点は一向に解決してはおりませぬ。

また、好むと好まざるとに拘わらず www 、食生活~文化~人種的に近い日本人と韓国人ですが、手持ちのデータは無いのですけれど、おそらく腸内細菌パターンも比較的よく似ている可能性があります。しかしながら、「お焦げとガンについて-12」で指摘したように、日本人と韓国人の大腸ガン罹患率には大きな開きがあります(胃ガンもそうです)。
で、以上から、日本人の腸内環境が良いとするならば韓国人のそれも良いと考えられますが、腸内環境を反映すると思われる大腸ガンの罹患率に大きな差が生じているという事実は何を意味するのでしょうか?

もちろん、現時点においては韓国人の腸内細菌叢データを持ち合わせていないので何とも言えませんが・・・。

いずれにしましても、まだまだ研究のし甲斐があるのが腸内細菌学、ということで今回のシリーズをお開きにしたいと思います。

ではっ!



学会報告-17

| | トラックバック(0)
続きです。

最近の腸内細菌学会では、「腸内細菌叢のバランスの破綻(dysbiosis)~炎症の発生~粘膜バリアの破綻~腸管からの異物毒物の流入~諸々の疾病への道」という図式でのお話が多いです。
このことから、腸管粘膜での炎症抑制物質としての「酪酸」に多くの注目が集まっています。

酪酸と言えばクロストリジウム属の「酪酸菌」が有名ですが、それに限らず他の属の菌においても比較的多くの菌が酪酸を産生することが分かってます。前回出てきたFaecalibacterium prausnitzii もその一つです。次世代プロバイオティクスの候補の多くが酪酸産生菌です。

で、今回の講演では、「過敏性腸症候群においては短鎖脂肪酸の一つである酢酸やプロピオン酸は症状を増悪する」との趣旨のお話もありました。腸管内で産生された乳酸は、その後にプロピオン酸に転換する系と酪酸に変わる系とがあり、酪酸に変わった場合は症状の低減方向に、プロピオン酸に変わった場合は増悪に、ということでした。

また、関節リウマチと腸内細菌との関連を扱った演題では、ヒト患者の糞便を解析した結果、プロピオン酸と酪酸の濃度が低下しており、同時に、酪酸産生菌であるFaecalibacterium prausnitzii の菌数の低下が見られた、とのことでした。さらに関節炎のモデルマウスに酢酸、プロピオン酸、あるいは酪酸それぞれを混ぜた餌を与えた結果、酪酸投与群においてのみ関節炎の軽減が見られ、これは、腸管免疫組織の制御性T 細胞の分化を誘導して抗炎症に働いたため、と結論付けておりました。

その一方で、マウスのモデルを用いてアルツハイマー病と腸内細菌との関連を調べた発表では、制御性T 細胞(Treg)の分化・誘導・増殖の促進と認知機能障害の進行とが関連する、との結論でした。ご存知のように、酪酸はTreg の分化・誘導・増殖を促進する物質です。

ナカナカ混沌としておりまする・・・。



学会報告-16

| | トラックバック(0)
今年もまた「線状降水帯」の季節がやってまいりました。ほんの数年前までは誰も知らなかった言葉ですが、今後は俳句の季語にでもなりそうな勢いです。
で、これが明ければ40 ℃越えの日々、ってヤツですかあ~!

いやだああああ~~~!!!


さて、腸内細菌学会の続きです。
海外特別講演として、オランダの研究者が「次世代プロバイオティクス」のお話をされてました。以下、要旨です。

従来の第一世代のプロバイオティクスとしては、ビフィズス菌やラクトバチルス属に代表される乳酸菌、あるいは腸球菌などが主流でしたが、「次世代のプロバイオティクスはこれだ!」ということで、まずは弊社「楽源」でも使われている酪酸菌の名前を挙げておりました。それは良いのですが、その他の候補としては以下のような菌が・・・。

Akkermansia muciniphilaFaecalibacterium prausnitziiEubacterium hallii
・・・・・・。

・・・読めたヒト、手を挙げてください・・・


これらの菌、ビフィズス菌と同じく絶対嫌気性菌ですので、「生きてお腹の中で活躍する菌」とのプロバイオティクスの定義上、何らかの方法により生きたまま供給されなくてはなりません。嫌気性菌ですから少しでも酸素に触れると死んでしまいますので、特殊なカプセルに入れるなど、工夫が必要です。さらに、腸内でちゃんと生きたまま働いてくれるのか、さてさてさて・・・。

Akkermansia muciniphila に至っては、その後の演者によって「悪玉菌」扱いされていましたので wwww 、まだまだ研究が必要な連中かと思われます。 

一方、従来のプロバイオティクスの概念に代わって「ポスト・バイオティクス」の概念を提唱しておりました。曰く、「菌は生きている必要がない」、「菌体の構成物質や代謝産物などが対象となる」とのことです。その結果、「最終的に供給される商品の制御がたやすくなる」との結論でした。

これ、株式会社喜源バイオジェニックス研究所が20 年の間、提唱し、実行してきたことではありませぬか!!!
ようやく世界が坂城町のレベルに追いつきつつある、ということなのでしょうね!坂城町には今や酪酸菌で飛ぶ鳥を落とす勢いの企業もあることから、シリコンバレーにちなんで「坂城町バイオジェニックス・バレー」なんて銘打って売り出す、ってえのは如何でしょ?

町長さん??



学会報告-15

| | トラックバック(0)
梅雨前線のただ中にある坂城ですが、みなさまカビが生えてはおりませぬか?

さて、雨も中休み、五月晴れとなった先月の 18~19 日、東京の江戸川区で行われた第 23 回腸内細菌学会に行ってまいりましたので、ご報告いたします。

みなさまもご存知のように、近年、腸内細菌に対する注目度は非常に高く、関連する論文数も増加の一途をたどっています。生体に対する腸内細菌叢の関与は従来の「おなかの調子を整える」一辺倒ではすでになく、炎症性腸疾患や糖尿病、あるいはリウマチに代表される自己免疫疾患など、様々な疾病との関連性が精力的に研究されつつあります。
また、最近では、腸内細菌と脳神経系との関連にも注目が集まり、アルツハイマー病やパーキンソン病、あるいはうつ病や自閉症との関連に関しても活発に調べられつつあります。

今回の腸内細菌学会は「腸内細菌と健康:消化管を起点とした宿主の恒常性の維持」をメインテーマとし、一日目は一般演題を、二日目には脳神経との関連に関するシンポジウムが執り行われました。


さて、乳酸菌や麹菌などの機能性を主体に研究を行っている喜源バイオジェニックス研究所ですが、これらは当然腸内細菌叢とも関連しますので、センセも常日頃から関連論文に関しては、チェックおさおさ怠りません。
で、そのようなチェックを通して個人的に感じつつあったことですが、「最近の腸内細菌学って、一般的には隆盛だけど、学術的には壁にぶつかりつつあるんじゃないのかなあ~?」ということです。
で、今回の学会ですが、初めに大会会長の挨拶があり、その中でグラフを示して「腸内細菌に関する論文はこんなに増加しつつある!」と威勢よく述べておられましたが、客観的に見ると、どうみても論文数は天井を打ちつつある、としか思えませんでした。このまま推移すると、たぶん、徐々に減少していくようなカンジです。

で、二日間にわたる討議を通して感じたことは、「ここ10 年間の腸内細菌学の進歩により、腸内細菌は単に消化管にただ居るだけの存在ではなく、生体の恒常性維持に関して積極的な役割を果たしていることは、確かに分かった。一方で、いまだどのような菌がどのようなイベントに対してどのようなメカニズムを介して働いているのか、少数の例外はあるものの、はっきりとした答えは出ていない。また、仮にそのような菌の特定がなされたとしても、その菌に効率よく働いてもらうためにはどうすればよいのか、具体的方法を示すにはほど遠い。さらには、気が遠くなるような膨大なDNA のデータに基づいた解析の結果、腸内細菌と何らかのイベント(何でもよいのです)との「相関」があることは分かった。けれどもそのイベントとの「因果関係」に関してはいまださっぱり分からない、というのが現状であるなあ~。」ということです。

早い話が、「腸内細菌は原因なのか?結果なのか?」という数十年来の根源的な問いかけに対して、現状では、いまだ不透明な返事しかできていません(個人的には、原因~結果に加えて「介在」という概念を加えるべきだ、と思っています)。

さらに追い打ちをかけるかのように、つい最近、アメリカのFDA (食品医薬品局)が、最近はやりの「糞便移植」に対して待った!をかけました。
糞便移植に関しては「学会報告-12」でもお知らせしましたが、クロストリジウム・デイフィシル菌による偽膜性腸炎に対して非常に有効な治療法です。

今回のFDA による「待った!」の背景には、米国での糞便移植治療による死者の発生があります。ドナー側の糞便中に「薬剤耐性菌」が存在していたことが原因だと考えられています。通常、糞便移植を行うときには、薬剤耐性菌の存在を含め、種々の病原菌の排除が必須だと思われますが、何らかの失宜によりそのまま投与してしまった、とのことでした。


基本、食生活を主体とした生活習慣の違いによって国家~民族間の違いが顕著に見られる腸内細菌叢のパターンですが、そのような事実を踏まえた場合、「良い」腸内細菌パターンや「悪い」腸内細菌パターンとは何なのか、基本的定義すらおぼつかなくなってしまいます。
「日本人にとって良いパターン」とか、「欧米人にとって悪いパターン」とかで定義する方向性に向かうのでしょうが、そうなりますと食~遺伝的背景~生活習慣の三者(あるいは「歴史」も含まれてしまうかも)が腸内細菌パターンに関連し、変数が増えますので、今後の腸内細菌学、まだまだいばらの道が続きそうです。

次回以降は具体的な演題の内容について、お話いたします。





この過去記事について

このページには、過去に書かれた記事のうちちょっと研究内容カテゴリに属しているものが含まれています。

前のカテゴリは食用微生物のお話です。

次のカテゴリは中山博士の横顔です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。