学会報告-12

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喜源バイオジェニックス研究所のホームページ(http://www.kigen-biogenics.com/)でも紹介しておりますが、近年、クロストリジウム・ディフィシル菌による偽膜性腸炎に対する糞便移植治療が脚光を浴びています。8~9割に及ぶ著効率に加え、何といっても他人の糞便をそのままに丸ごと投与するというダイナミズムに驚かされてしまいます。

そこで、という訳で、「腸内細菌が関与する事が明らかな他の疾患にも応用できないか」とばかりに、いくつかの臨床研究が行われました。そのうちの一つが潰瘍性大腸炎に対する応用です。
今回は、潰瘍性大腸炎に対する糞便移植の応用に関して、慶応大学と順天堂大学の二つの結果が発表されました。

慶応大学では、難治性の潰瘍性大腸炎患者並びに機能性胃腸症患者それぞれ10例に糞便移植を行いました。移植する糞便は患者の配偶者、或いは2等親内の家族のものを用い、大腸内を1回洗浄の後に内視鏡下に投与する、というものでした。その結果、潰瘍性大腸炎の全てで無効、機能性胃腸症患者では10例中6例で著効、という結果となりました。

順天堂大学では、実質17例の潰瘍性大腸炎患者に対してAFM療法と呼ばれる抗生剤治療を行い、患者の腸内細菌叢を排除した後に2等親内の家族の糞便を移植する、という方法を用いました。その結果、17例中14例が有効性を示す結果となりました。
この時、抗生剤投与によってほとんどの患者においてバクテロイデス門の菌が一旦消滅しましたが、糞便移植の結果、バクテロイデス門の菌が再び戻った患者では大腸炎が回復した一方で、バクテロイデス門の菌が戻らなかった患者では効果が無かった、という事でした。

両者の結果をすなおに読み解くと、

1. 骨髄移植と同じく、受け取り側の菌叢を排除しておく方が効果がある。
2. 炎症が酷い場合、糞便移植には限界がある。
3. バクテロイデス門の菌の存在と潰瘍性大腸炎との間には、何らかの関係がありそうだ。

という事でしょうか。
ただし、HPでも指摘したように、バクテロイデス門の菌=バクテロイデス属の菌ではなく、バクテロイデス門の菌>バクテロイデス属の菌、という関係ですので、この点くれぐれもご注意下さい。


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このページは、喜源テクノさかき研究室が2016年6月21日 13:16に書いた記事です。

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