学会報告-17

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続きです。

最近の腸内細菌学会では、「腸内細菌叢のバランスの破綻(dysbiosis)~炎症の発生~粘膜バリアの破綻~腸管からの異物毒物の流入~諸々の疾病への道」という図式でのお話が多いです。
このことから、腸管粘膜での炎症抑制物質としての「酪酸」に多くの注目が集まっています。

酪酸と言えばクロストリジウム属の「酪酸菌」が有名ですが、それに限らず他の属の菌においても比較的多くの菌が酪酸を産生することが分かってます。前回出てきたFaecalibacterium prausnitzii もその一つです。次世代プロバイオティクスの候補の多くが酪酸産生菌です。

で、今回の講演では、「過敏性腸症候群においては短鎖脂肪酸の一つである酢酸やプロピオン酸は症状を増悪する」との趣旨のお話もありました。腸管内で産生された乳酸は、その後にプロピオン酸に転換する系と酪酸に変わる系とがあり、酪酸に変わった場合は症状の低減方向に、プロピオン酸に変わった場合は増悪に、ということでした。

また、関節リウマチと腸内細菌との関連を扱った演題では、ヒト患者の糞便を解析した結果、プロピオン酸と酪酸の濃度が低下しており、同時に、酪酸産生菌であるFaecalibacterium prausnitzii の菌数の低下が見られた、とのことでした。さらに関節炎のモデルマウスに酢酸、プロピオン酸、あるいは酪酸それぞれを混ぜた餌を与えた結果、酪酸投与群においてのみ関節炎の軽減が見られ、これは、腸管免疫組織の制御性T 細胞の分化を誘導して抗炎症に働いたため、と結論付けておりました。

その一方で、マウスのモデルを用いてアルツハイマー病と腸内細菌との関連を調べた発表では、制御性T 細胞(Treg)の分化・誘導・増殖の促進と認知機能障害の進行とが関連する、との結論でした。ご存知のように、酪酸はTreg の分化・誘導・増殖を促進する物質です。

ナカナカ混沌としておりまする・・・。



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このページは、喜源テクノさかき研究室が2019年7月 5日 20:53に書いた記事です。

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