今月の書評-16

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天気予報通り、夜から朝方にかけては雨。昼までにはやみました。
本日は大人しく縄文人の続きを書きます。Y染色体のDNA分析です。

現代人の男性に由来するY染色体からのDNA(=YDNAと呼びますね!)を分析しますと、色々なタイプに分類できます。そのようなタイプのことを、「ハプロタイプ」と呼びます。単に「タイプ」とか「パターン」とか言っても全然かまわないのですが、ちょいと学術的な味付けをするために、類書に従って、かっちょよくハプロタイプと呼んでいきます(ハプロの意味はググってください)。

DNAを調べることでなんで人類の(長い)歴史~拡散が分かるのか、極々簡単に説明します。以下、DNA、ゲノム、遺伝子、塩基、ATGC、二本鎖DNA、変異などなど、皆さん既にご承知の概念であると仮定して、お話していきます。

細胞が分裂するとき、遺伝子の複製が生じます。必然的に、ATGC よりなる塩基配列も全く同じ配列として受け継がれます。
けれども、偶然であろうが必然であろうが、時々間違いが生じます。A となるべきところがT となったりするわけです。
多くの場合、そのような間違いは細胞の段階で排除されますが(排除する仕組みがあるのです)、排除されずに残る場合もあります。
そのような間違いが生殖細胞の遺伝子上で生じ、排除されずに受精に至った場合、次のような経過を取ります。

1) 生まれる前に、死んだ。
2) 生まれた。けれど、生殖年齢に達する前に(環境に適応できずに)死んだ。
3) 生まれた。他の人々と全く変わらず普通に生きた。
4) 生まれた。他の人々よりもより良く環境に適応し、他の人々よりも多くの子供を残した。

遺伝子上でDNA の複製時に間違いが生じ、それが固定し、何らかの形質的な変化が生じた場合、これを「変異」と呼びます。突然変異の変異ですね!
上記の1~4 の違いは、変異が生じた遺伝子の生存上の重要性の違いによって生じます(ちょと難しいですね・・・)。
要するに、生存する上で重要な遺伝子ほど、わずかな変異も許さない、という基本原則があるのです。従いまして、そのような重要遺伝子では、バクテリアもホモサピエンスもほとんど同じ塩基配列を有する、などという現象が生じます。

ということは、生存上必ずしも必須ではないような形質に関与する遺伝子においては、重要遺伝子よりもより多くの変異が生じていると考えられます。
さらには、ゲノム上には形質をつかさどる遺伝子以外に多くの役に立たない(とこれまで考えられてきた)DNA 領域が存在しますので、これらの領域の塩基は遺伝子上の塩基よりもより頻繁に変化する、と考えられます。
そしてそのような変化の多くは偶然に生じると考えられますので(あるいは偶然に生じると仮定して)、たくさんの例数を平均化すれば、ある決まった期間に1 個の変化が生じるとみなしてOK!と考えられるのです。難しい???

ここまで分かれば、後は1 個の変化が生じる期間を決めれば良いだけです。

DNA の塩基配列の変化速度が決定される以前、様々な動物種のヘモグロビンタンパク分子を構成するアミノ酸を調べ、その違いの数と、各動物種の分岐時期とを比較する試みが行われました。いわゆる「分子時計」です。動物の分岐の年代は、化石やアイソトープによる測定法で決定します。
で、その結果、アミノ酸の変化数と動物種の分岐時期との間に直線的な相関があることが分かり、計算の結果、1 個当たりのアミノ酸が変化する速度を(大雑把ですが)推定することができるようになりました。
アミノ酸はまさに遺伝子の塩基配列によって直接的に決定されますので、ほどなく1 塩基の変化に要する時間が推定されるようになりました。

ここで注意して頂きたいことは、この推定が成り立つには「塩基の変化は偶然かつ一定速度で生じる」と仮定されなくてはなりません。同時に、「絶対年代の測定は化石やアイソトープなどの方法で決定される」という点にも注意を払う必要があります。すなわち、DNA 分析による年代測定は、未だ必ずしも絶対的かつ正確なものではない、ということです。今後の展開によってはある程度の修正が加えられる可能性もある領域です。

さて、ヒトの起源を調べる場合などは、それなりの頻度で変化するようなDNA 領域をまず決めます。要するに、バクテリアとあまり変わらないような塩基配列を持つ領域を調べてもダメだし、ヒトの個人差が特定されるような変化に富む領域を調べても意味が無いわけです。
だもんで、適当な期間で変化するような領域を調べます。

で、このような方法で現代人男性のYDNA をたくさん調べ、分析していきますと、いくつかのパターン(ハプロタイプ)に分かれること、そしてそれぞれの起源(古さの順番)が分かるようになりました。

次回は、YDNA のハプロタイプに基づいた現代日本人の特徴についてお話します。





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このページは、喜源テクノさかき研究室が2018年5月 3日 14:57に書いた記事です。

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