学会報告-9

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本日は今年の6月に開かれた第19 回腸内細菌学会から、個人的に興味を引かれた演題を数点ご紹介致します。

科学の世界にも栄枯盛衰と言おうか流行と申しましょうか、進歩~人気の浮き沈みがありますが、ここ数年の腸内細菌学の発展には目覚ましいものがあります。その最大の原因が、培養不可能~培養困難な細菌のDNA を網羅的に調べ上げようとする試みの成功に端を発します。膨大な数の細菌のDNA情報をコンピューターを駆使して分類し、大雑把な系統学的パターンを描き出し、そこから何らかの推測を引きだそうとする試みです。そのようにして得られた推測から仮説を構築し、これを追求する事によって、従来ぼんやりとしていた腸内細菌の役割が次第に明らかとなってきました。

このような試みから日本人の腸内細菌叢の特異性が浮かび上がりつつありますので、まずはこれをご紹介致します。

九州大学大学院の先生達は、日本を含むアジア各国の子供達数百人の腸内細菌叢を調べました。その結果、以下の事が明らかとなりました。

1. 東アジアの子供達の腸内細菌にはビフィズス菌が多く、中でも日本の子供達には特に多い。 
   一方で、欧米の子供達のビフィズス菌は非常に少ない。
2. アジア地域でも、タイとインドネシアを中心とする東南アジアと、日本、中国、台湾を中心とする
   東アジアとは、腸内細菌のパターンが明白に異なる。
3. 日本の子供達のパターンはビフィズス菌が多い一方で大腸菌群やウエルシュ菌などの悪玉菌が
   少なく、同時に、菌種の多様性に乏しい。
4. どの地域でも、年齢と共にビフィズス菌の割合が低下し、大腸菌群が増加する傾向が見られた。

との事でした。
東南アジアと東アジアのパターンの違いの原因として、前者がインディカ米を、後者がジャポニカ米を主食としているので、その違いが反映されている?と推測されていました。
また、日本人の子供達は、いわゆる「きれいな菌叢」を持っているが、一方でアレルギーが極めて多い事実も指摘されていました。

個人的に興味深い点の一つは、ビフィズス菌は母乳を代表とする「乳」に強く関連する菌であると思っていましたが、牛乳を大量に消費する欧米において腸内細菌叢に占める割合がアジアよりもむしろ大幅に低い事が驚きでした。
また、日本の子供達は最もビフィズス菌の割合が大きいにも関わらず、アレルギー罹患率が高い点も大いに悩ましい点です。
日本の子供達はビフィズス菌の割合は高いけれども腸内細菌の多様性に乏しいという事実から、単に善玉菌が多ければ良いという訳ではなく、同時に種類の多様性も健康維持には必要だ、という結論が導けそうです。他国に比べて「きれいな菌叢」を持っている日本の子供達の環境は、やはり近年の「過剰衛生」の影響が強く現れているのではなかろうか?と個人的に考えました。

お次の演題も同じくゲノムデータに基づいた腸内細菌叢の国際間比較です。東京大学大学院、慶應大学、理研、麻布大学の共同研究です。
106 人の日本人成人から得られた腸内細菌のゲノムデータを、既に公表されている8 ヶ国、900 人のデータと比較しました。その結果、

1. 腸内細菌叢には高い国別特異性がある。
2. 日本人にはビフィズス菌が多い。
3. 日本人の腸内における高い酢酸の生成と、低いメタンの生成。 
4. 食事内容よりも抗生物質の使用量との関連が強く見られる。

との事でした。
先述したアジアの子供達の結果と殆ど一致していますが、日本人は大人子供を問わず、ビフィズス菌が多い事は確かなようです。また、日本人の腸内に見られる高い酢酸の生成と低いメタンの生成は、日本人の腸内環境が他国のそれと比べてより健全である事を強く示していると思います。
一方で、食事内容よりもむしろ抗生物質の影響が強く見られる事が興味深い点で、畜産業で大規模に使用される抗生物質の影響も含め、今後さらに深い研究が望まれる分野かと思われます。
 


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このページは、喜源テクノさかき研究室が2015年8月12日 10:31に書いた記事です。

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