学会報告-10

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続きです。

ヤクルト中央研究所が発表した興味深い演題を一つご紹介致します。

102 名の妊婦さんから母乳を、その後に生まれた各々の赤ん坊からは糞便を採取し、ビフィズス菌の有無と菌の同一性を調べました。その結果、

1. 出産前の母乳からはビフィズス菌は全く検出されなかった。
2. 赤ん坊の糞便からは、出産直後の胎便から検出された例もあった。
3. 出産後、7日目以降に母乳からビフィズス菌が検出され始め、それらは赤ん坊の糞便から検出された
   ビフィズス菌と同一の系統であった。

抄録には母乳からビフィズス菌が検出された割合が書かれていないので、どのような頻度で母乳からビフィズス菌が検出されるのか、今となっては分からないのですが(たぶん、センセが聞き漏らした・・・)、この結果から、

1. 分娩時に母体のビフィズス菌が赤ん坊に伝播する。
2. 赤ん坊の腸内で、ビフィズス菌が定着~増殖する。
3. 赤ん坊が母乳を飲むとき、赤ん坊の口を介して母親の母乳に移行する。
4. 母乳に移行したビフィズス菌は、(恐らく)乳腺内に定着し、そこで増殖する。
5. 母乳を介して再びビフィズス菌が赤ん坊に移行する。

というサイクルが生じている可能性が強く示唆されます。
お母さんの母乳は「天然のビフィズス菌入りプロバイオティクス飲料」、という訳ですね!

最後の演題を紹介します。肥満~胆汁酸~腸内細菌~肝臓障害という流れで2 本の演題がありました。両者織り交ぜてご紹介します。北海道大学と大阪大学です。

1. 肥満の原因である脂肪の摂りすぎは胆汁酸の分泌過多をもたらす。
2. 胆汁酸中のコール酸が腸内細菌の働きでデオキシコール酸に変化する。
3. デオキシコール酸が肝臓の星細胞に影響を与える。
4. 肝星細胞より炎症性サイトカインが分泌され、肝ガンを含めた肝臓障害を引き起こす。

という流れです。
コール酸をデオキシコール酸に転換する細菌が、NHKの番組でも紹介されていたアリアケ菌(Clostridium ariake)です。
アリアケ菌の大部分は回腸に住み、肥満が進むとその数が急激に増加します。
デオキシコール酸が大腸ガンのプロモーター(促進因子)として働く事は以前より知られていましたが、最近では大腸ガンの他にも、上記のように肝機能障害を含めた体全体に影響を及ぼす可能性が指摘されるようになりました。
肥満がもたらす健康への影響に関しては、脂肪細胞から分泌されるレプチンとアデポネクチンの関係など、多方面からの影響が指摘されますが、今回の演題は腸内細菌を介する影響の重要性を指摘する結果となっています。

今年の腸内細菌学会では他にも紹介したい演題が多々ありましたが、取りあえずここまでと致します。

ではみなさま、無事に猛暑を乗り切って下さいませ!

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このページは、喜源テクノさかき研究室が2015年8月12日 14:25に書いた記事です。

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