学会報告-8

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続きです。

今回は「麹とガン予防」に関する演題が数点ありましたので、大豆麹乳酸菌発酵液との関連からも、これらをご報告したいと思います。

始めに、鳥取大学の先生達によるアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae) で発酵させた玄米の発ガン抑制のお話をします。因みに、アスペルギルス・オリゼは「麹菌」を代表する菌で、大豆麹乳酸菌発酵液で用いている菌でもあります。

C57BLマウスにガン細胞のQR-32細胞を移植すると、通常はQR-32細胞は自然退縮し、腫瘍塊を形成するには至りません。しかしながら、この時ゼラチンスポンジと共にQR-32細胞を移植すると、QR-32細胞は増殖し、最終的にマウスは死んでしまいます。
ゼラチンスポンジそのものには毒性はありませんが、ゼラチンはマウスにとって異物ですので、移植されたゼラチンスポンジを排除すべく免疫細胞が集族し、炎症を引き起こします。そうしますと、通常は死に至らないQR-32細胞の移植が、同時に進行する炎症のために致死的となってしまいます。ガンの増悪と炎症との関係を見るための動物モデルの一つです。
このモデルを用いて、マウスにアスペルギルス・オリゼで発酵させた玄米を5%と10%に餌に混ぜて与えたところ、QR-32細胞による発ガンが抑制されました(5%群の発ガン率:35%、10%群:20%、無処置対照群:70%)。
麹菌発酵玄米にはQR-32細胞を直接抑制する能力はありませんでした。しかしながら、ゼラチンスポンジ内に浸出して来る免疫細胞数が減少し、炎症性サイトカインの発現量も減少しました。
すなわち、麹菌によって発酵させた玄米には炎症を抑える効果があり、この炎症抑制作用を通じて発ガン抑制効果も期待出来る、というお話です。

次の演題は、京都大学大学院の先生達による「カツオ節菌によるガン予防」のお話です。

カツオ節菌という名前はあまり聞いたことがないかと思いますが、これも立派な「麹菌」の仲間です。味噌や醤油、酒や焼酎で用いられる麹菌の殆どはアスペルギルスの仲間に属しますが、カツオ節菌はユーロチウムという種類に属します(Eurotium harbariorum)。
カツオ節を作るときは乾燥と燻蒸(くんじょう)を繰り返しますが、その工程においてカビ付けと呼ばれる作業が行われます。この時用いられるカビが、カツオ節菌です。
カビ付けにおけるカツオ節菌の役割は、

1. タンパク分解酵素の働きによって、うまみを増す。
2. 菌糸をカツオ節内部に伸ばし、水分を吸い出す事によって、乾燥を早める。
3. 魚油による変敗を防止する。
4. 雑菌による汚染を防止する。

などが考えられます。

今回の演題では、このようなカツオ節菌がflavoglaucin とisodihydroauroglaucin と呼ばれる2種類の物質を産生し、これらがマウス皮膚2段階発ガン試験において発ガン抑制効果を示した、という事でした。
抄録には発ガン試験でどのような発ガン物質を用いたかが書かれておりませんし、メカニズムに関してもコメントが無いのでこれ以上何とも言えないのですが、個人的には、カツオ節菌が産生するこれらの抗ガン物質に関して、以下のような形で今後の研究が進んでくれたら良いのでは?と思います。
すなわち、カツオ節の生産工程では燻蒸工程が大変重要ですが、一方で、燻蒸工程ではベンゾピレン(ベンツピレン)が発生する可能性があります。ベンゾピレンは発ガン物質として大変有名な物質で、このためにEU諸国では、つい先頃まで、日本からのカツオ節の輸入が禁止されておりました。
しかしながら近年の和食ブームの影響からか、つい先頃、輸入禁止措置が解除されました。
今後はカツオ節の疑いを完全に払拭するためにも、カツオ節菌が産生する抗ガン物質とベンゾピレンの関係を是非とも研究して頂きたいと思います。

今回の学会発表では、上記のように、麹菌の発ガン抑制効果に関する演題が目立ちました。
テクノさかき研究室では麹菌を用いて液体大豆麹を作製し、これを原料の一つとして大豆麹乳酸菌発酵液を作りますが、大豆麹乳酸菌発酵液には大変強力な抗変異原活性がある事が分かっています。現在、テクノさかき研究室は、大豆麹乳酸菌発酵液が持つ強力な抗変異原活性に対して麹菌がどのように、そしてどの程度関与しているのか、その解明に向けた研究を精力的に行いつつあります。

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このページは、喜源テクノさかき研究室が2015年8月11日 15:49に書いた記事です。

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