腸管免疫のお話 その三

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パイエル板というのは、分かりやすく言えば腸管のリンパ節の様なものです。しかし、普通のリンパ節とは異なる点がいくつかあります。中でも、パイエル板の表面が腸管管腔に面している点が、パイエル板の最大の特徴です。このような構造は、管腔に流れてくる細菌菌体やウイルスなどをパイエル板の中に積極的に「取り込む」ために発達してきたものだと思われます。

何故その様な事をするかと言うのを説明する前に、腸管管腔面のパイエル板表面(これを「ドーム」と呼びます)を、いくつかの図や写真で説明したいと思います。

 

パイエル板 電子顕微鏡図.gifこれはパイエル板表面の電子顕微鏡写真です。丸い月面のクレーターの様なものがいくつか見えますが、これがドームです。ドーム周辺にたくさんモコモコしたものが見えますが、これらは絨毛(じゅうもう)と呼ばれる細かいヒダヒダです。絨毯の表面を想像していただければ良いかと思います。絨毛がびっしりと腸管管腔内面を覆うことによって、腸管粘膜の表面積を増やしています。絨毛の表面は吸収上皮細胞で覆われ、広大な表面積を利用して、効率よく栄養素を吸収しています。

 

パイエル板ドーム表面-1.jpgこれはパイエル板ドーム表面を模式化した図です。表面にブラシを付けて一列に並んでいる細胞群が、吸収上皮細胞です。それらの間に色々な種類の細胞が存在しています。吸収上皮細胞に次いで数が多いのが杯(さかづき)細胞で、これは図では水色で示された「粘液」を分泌する役割の細胞です。杯細胞から分泌される粘液のために粘膜表面は常に粘液で覆われ、これが病原菌などに対するバリヤーの役目を果たす形となっています。

その他に、「抗原提示能」が強い樹状(じゅじょう)細胞や、マクロファージなども存在します。吸収上皮細胞間には特殊なタイプのリンパ球が数多く存在し、また、吸収上皮細胞下の粘膜下層には「形質細胞」などが居て、これはIgAという粘膜免疫系に特徴的なタイプの抗体を分泌します。形質細胞に関しては、次回ご説明する予定です。

ここからは、図で黄色に示されたM細胞についてお話致します。M細胞はパイエル板ドーム表面に存在する非常に特殊な細胞で、図で示したように、ドーム表面の細菌やらウイルスなどを、その触手を用いて積極的に取り込む細胞です。M細胞のすぐ下にはマクロファージや樹状細胞、リンパ球などが控えていて、M細胞の触手によって捕捉された細菌菌体などをM細胞から受け取り、マクロファージなどはこれを貪食、消化しつつ、ドーム表面からパイエル板内部に移動します。まずは、M細胞によって捕捉されつつある細菌と酵母の電子顕微鏡写真をご覧に入れましょう。

M細胞 電子顕微鏡図-2.jpg

これはパイエル板ドーム表面の電子顕微鏡写真です。矢印で示したところがM細胞の表面ですが、なにやらモコモコとしたものが存在していることが分かるかと思います。これらモコモコとしたものが、M細胞の「触手」です。上の写真では、丁度、酵母や細菌の桿菌(棒状の細菌)や球菌(球形の細菌)がM細胞の触手に捕まっているところが上手く撮影されています。当然、センセ自らが撮影したものです。

このようにしてM細胞は細菌などを捕捉し、それを間近に控えているマクロファージや樹状細胞に引き渡すのですが、何故その様な事をするのでしょうか?

マクロファージや樹状細胞は、これらの細菌などを貪食、消化し、その断片をパイエル板中心部に夥しく存在しているリンパ球に引き渡します。これは丁度「お尋ね者の人相書き」をリンパ球に触れ回る行為だと考えて良いかと思います。その後リンパ球はパイエル板を出て腸間膜リンパ節などに移動し、そこで増殖します。すなわち、お尋ね者の人相を知っている仲間を増やす訳ですね!

さらにそこからリンパの流れに乗って、全身を経巡ります。最終的に体各部の粘膜にたどり着き、そこでIgA 抗体を分泌する「形質細胞」などに変化します。

ここまでの流れをマンガにして見ましたので、まずはごらんになってください。

 

リンパ球の全身回帰.gif黄色くなっているのが「お尋ね者の人相書き」を教えられて「活性化」したリンパ球です。すなわち、食事その他、口や鼻から入ってくる病原菌やウイルスに対して腸管免疫系はM 細胞を窓口の一つとしていち早く情報を入手し、これに対して備えるために「先遣隊」を体全身に巡らす訳です!すごいですね、腸管免疫!

連休は本日で終了。従いまして、腸管免疫シリーズの続きは次回に示したいと思います。次の祝日はいつですかね?暦を見ますと7月まで当分ありませぬ、、、。中途半端ですので、それでは何とかがんばって、途中に続編を書いてみる事としましょうかね?でも、お約束ではありませぬので、さてどうなりますことやら、、、。

 

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このページは、喜源テクノさかき研究室が2012年5月 6日 15:46に書いた記事です。

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