お焦げとガンについて-5

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肉や魚を焦げ目が出来るほど高熱で調理した時に出来る発ガン物質とは?

前回で述べた肉や魚を高熱で調理した時に生じる発ガン物質は、ヘテロサイクリックアミン(heterocyclic amine) と呼ばれる一群の化合物です。日本語では「複素環式アミン」と呼びます。今後は略してHCA と表記します。以下の様な種類が代表的です。
HCA 種類.jpg
構造によって幾つかのグループに分ける事が出来ますが、高熱調理した食肉中で比較的検出量が多く、かつ発ガンに関連すると目されているものに限ってお話していきます。

HCA は「焦げ目が出来るほどに高熱で調理した肉や魚の中に、極々微量に生成する」物質です。従いまして、生肉生魚は当然ですが、煮物や軽く炒める程度の調理法で処理したものからは殆ど検出されません。
食肉~魚肉の種類とHCA の種類との間には、「関連がある」と言う文献と、「あまり関連はない」、と言う文献とがあり、曖昧です。ここでは「関連がある」と言う文献を紹介します。
HCA 肉の種類.jpg
この文献では、牛肉や豚肉、いわゆる「赤身肉」と呼ばれる肉を高温調理した場合にはMeIQx と呼ばれるHCA が多く生じ、鶏肉を同様に調理した時にはPhIP と呼ばれるHCA が多く生じる、と言う結果が示されています。
また、上の図と下の図の縦軸に注意して下さい。下の図の目盛りが大体5倍ぐらいになっています。つまり、一般的に、PhIP が量的に最も多く食肉中に検出される事を示しています。 

むしろ、「焼き魚にこそ多くのHCA が生成する」言う報告もありますが、仮にそれが正しいとしても、焼き肉に比べて焼き魚の消費量は世界的に見ても明らかに少数派に属します。また、焼き肉消費による発ガンのお話は、大腸ガンに関連する報告が数多いので、話をなるべく簡単にするために、以降は「焼き肉~HCA~大腸ガン 」の三題噺に限定してお話して行きたいと思います。


加熱の程度とHCA の生成量を示した文献は数多いですが、その内の一つを紹介します。

HCA 加熱.jpg
各グラフは、使用した肉の種類と調理法ごとの結果です。縦軸にRevertants と言う言葉がありますが、これは前回お話したエームズテストの結果、寒天培地上に生じたネズミチフス菌の集落の数を意味します。横軸は加熱温度です。調理後に調理肉からHCA を抽出し、エームズテストで実験した、と言う事です。ここから、「加熱温度が高くなるのに比例して、変異を起こしたネズミチフス菌が増えた」と言うことが分かると思います。

高熱調理した食肉中から最も多く検出されるHCA がPhIP である事から、PhIP こそが食肉による発ガンの原因物質だ、と断定したくなりますが、話はそんな簡単なものではありません。
エームズテストで調べると、PhIP の変異原としての能力はMeIQx などに比べて圧倒的に弱く、大体1,000 倍くらい違います。二番目の図では、牛肉や豚肉にはMeIQx が多く、鶏肉にはPhIP が多いと示されています。これがホントに正しいとするならば、エームズテストの結果に基づいて述べる限りにおいて、鶏肉をたくさん食べるよりも牛肉を少量食べる方がHCA による発ガン効果が高くなる、と言う事を意味することになります。

ま、これもまた「仮定に仮定を重ねた上でのお話」ではありますので、本当の所はもちろん分かりません。少なくともそのような議論は出来る、とでも考えておいて下さい。

次回はHCA がどの様なメカニズムで変異原として働くのか、と言うお話を致します。

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このページは、喜源テクノさかき研究室が2014年4月16日 15:16に書いた記事です。

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