お焦げとガンについて-14

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主犯?共犯?それとも無実???

細胞変異因子として位置づけられるヘテロサイクリックアミン(HCA) が主犯格と思われますが、主犯の座を巡って現在紛争中の連中も、肉の中には存在します。

油?

「ガン概説:その3」の中でお話致しましたが、肝臓で作られる胆汁の主成分は胆汁酸と言う物質です。胆汁酸は肝臓で作られた後に腸管に分泌され、脂肪の消化を助けます。その後は大部分が再吸収されますが、一部は再吸収されずに大腸に達し、腸内細菌の働きで二次胆汁酸に転換されます。この二次胆汁酸の中に発ガンを促進する働きを持つものがありますので、油の摂りすぎには注意が必要です。

一方、世界の油消費量マップを見る限り、大腸ガン罹患率マップとの比較において、何となく関連している様な、していない様な、と言うカンジで、はっきりとしません(下図)。

daily fat consumption.jpg
特に日本と韓国には当てはまりませんし、北欧よりも南欧の方が摂取量が顕著に高いです。さらにはウルグアイの消費量も多くありません。これは、この図は植物油も動物性脂肪も区別していないので、例えば南欧などのオリーブ油の消費量が反映された結果かと思います。

胆汁は、植物油であろうが動物性脂肪であろうが、油であれば区別無く分泌されますので、仮に油が大腸ガン発ガンの「主犯」であるとするならば、地中海地域の国々の大腸ガン罹患率はもっとアップして良いかと思います。けれども、事実は異なります。
従いまして、食肉中に含まれる脂肪は、共犯者ではあっても、主犯とするには証拠不足であると思います。

次に疑われるのは、肉の中に含まれる鉄分です。

肉の中の鉄分はどう?

「ガン概説:その1~3」の中でお話した様に、アスベストによる発ガンメカニズムの一つとして、鉄元素の触媒作用による活性酸素の産生が疑われています。食肉、特に牛肉、豚肉、羊肉等の「赤身肉」と呼ばれている肉には鉄分が多く含まれていますので、これの過剰摂取による鉄元素の取り込みが、その後に体内で活性酸素産生に結びつき、発ガンに至る、と言う説があります。これは動物実験などでも報告されていますので比較的説得力もあるのですが、HCA との比較において、主犯か副犯かで意見が分かれます。

そもそも鉄元素は野菜中にも多く含まれています。ほうれん草や小松菜などが有名ですが、パセリやひじきの方が圧倒してます。大豆も多いです。一方で、肉に多く含まれる鉄は肝臓などの臓器に局在しますので、レバーなどが特に好きなヒトは別として、「筋肉部分」を主体に食べる普通のヒトにとっては、「鉄元素そのもの」の絶対的な摂取量はそんなに多くはありません。
しかしながら、肉中に含まれる鉄元素は「ヘム鉄」と呼ばれる形で存在し、このヘム鉄は野菜等に含まれる普通の鉄よりも消化管からの吸収が5~6 倍高いので、おろそかには出来ません。因みにヘム鉄と言うのは、脊椎動物の赤血球ヘモグロビンタンパク中の鉄を中心とした特殊な構造をした化合物の事で、植物の葉緑素と似たような構造をしています。

一方で、そもそもヘム鉄は我々の体内に既に相当量存在し、赤血球が寿命を迎えた時には鉄分は再利用されるメカニズムも存在します。過剰に摂取された鉄は排除されるメカニズムも存在しますし、鉄欠乏性貧血の症例には事欠かないのが寧ろ一般的ですので、レバー好きのヒトは別として、普通に赤身肉を食べるヒトが摂取する様な分量の鉄分が本当に発ガンにつながるものなのだろうか?と言う素朴な疑問も生じます。

ヘム鉄の主たる吸収部位は十二指腸~小腸上部ですが、ヒトの腸管の吸収上皮細胞にはそもそも「ヘム鉄分解酵素」と呼ばれる酵素が存在し、ヘム鉄の過剰摂取を抑制するメカニズムが備わっています。また、吸収上皮細胞におけるヘム鉄の吸収量が飽和状態に達すると、細胞は粘膜から消化管管腔内に脱落し、死んでしまいます。
今回のシリーズは大腸ガンのお話ですから、大腸粘膜で何らかの仕事が成される必要があります。そうしますと、消化管上部で吸収されたヘム鉄は何らかのメカニズムで大腸粘膜に選択的に移行し、そこに蓄積する必要がありますが、それを裏付ける報告はあるのでしょうか?
そうでは無く、十二指腸~小腸上部で吸収されずに残ったヘム鉄が大腸まで到達し、大腸粘膜で吸収されるのでしょうか?
或いは鉄分を飽和して脱落した吸収上皮細胞が大腸に到達後にヘム鉄を放出し、何らかの影響を及ぼす、と言うシナリオでしょうか?

そもそも鉄分は吸収しづらい物質ですので、野菜や海草などから摂取された鉄分の大部分は吸収されずにそのまま大腸に移行し、その後に排泄されると思われます。そう考えますと、吸収されずに大腸まで容易く到達する普通の鉄分の方が、大腸粘膜に直接影響を及ぼす可能性の方が強い様な気がしますが、、、。

或いは例によってブラックボックスである腸内細菌叢が関与しているのでしょうか?

良く分かりません、、、。

こうなりますと、食肉の種類で比較検討する必要がありそうです。

食肉の種類と鉄分量の比較

と言う訳で、牛肉、豚肉、羊肉、鶏肉の、等重量中の鉄分量を比較してみました。

食肉中の鉄分量.jpg
脂肪が付くとその分赤身が少なくなりますので、鉄分量も減ります。羊の赤身肉のデータが無かったので、山羊の赤身肉のデータで代用しました。「そんなことして良いのか?羊に対して失礼ではないのか?!」とお叱りを受けるかも知れませんが、羊の脂肪付き肉に含まれる鉄分の量が相当に多いので、他の肉と比較しても、この程度で遜色無かろうと思います。本当は、たぶんもっと多いだろうと思ってます。少なめにしときました、、、。

食肉の種類で鉄分含有量が結構異なりますが、これはたぶん、餌のせいかと思います。

食肉牛には牧草も与えますが、「肥育」と言ってトウモロコシ等の高カロリー食も与えますので、牧草100% で育てる訳ではありません。豚は雑食です。鶏も鶏専用の餌で育てます。

一方、羊や山羊は殆ど草地で草だけを食べて育ちますので、放牧地の土壌に由来する鉄分がそのまま羊肉に移行します。従いまして、含まれる鉄分も多くなります。白山羊さんや黒山羊さんはお手紙を読まずに食べますので、インクの成分も含まれているかも知れません。つまらん冗談ですので気にせんといて下さい。

となりますと、次に行う事は、羊肉の消費量と大腸ガン罹患率を比較する事です。特徴的な国があります。

羊肉の消費量と大腸ガン罹患率の比較

その国は、モンゴルです。「お焦げとガンについて-8」の図を再びご覧になって下さい。国別一人当たり年間羊肉消費量が圧倒しています!

また一方で、2 位と3 位にはニュージーランドとオーストラリアが顔を出していますが、この両国は、牛も鶏も羊も、肉であれば何でも食べる国である事が分かりますね!オーストラリアはカンガルーも射殺してドッグフードにして販売する国ですが、それでもどうしても鯨肉だけは許せない、との事らしいですwwwww
自分の国だけでしたら別にいいんですけどね、、、、。
アングロサクソンって、、、、。
 

さて、モンゴル人の大腸ガン罹患率は、ずいぶん低いです。従いまして、羊肉消費量から見積もられるヘム鉄の摂取量との間に乖離(かいり)が見られますので、「ヘム鉄と大腸ガンとは無関係!」との結論に達するかと思いきや、そうは問屋が卸しません。
モンゴル人の平均寿命は2011年の数字で68.49 歳だそうです。加えて65 歳以上の高齢者が人口に占める割合は4~5% 程度と日本の1/5 以下ですので、この結果をそのまま評価する事は出来ません。
結局、良く分からない、との結果となりました、、、。残念!

因みに、この世界にはもっとスゴイ連中も居ます。それは、マサイ族に代表される東アフリカの遊牧民です。現在紛争中で何かと大変な南スーダンですが、その地域からケニア~タンザニアにかけては、ヌエール族やディンカ族、マサイ族などと言った、牛を中心とした生活を送っているめっちゃくちゃ背が高い連中が居ります。彼らの主食は牛の乳に牛の血液を混ぜたものですので、ヘム鉄がたっぷりです。でも、当然の事ですが、大腸ガン以前の生活ではありますので、「だからどうした!」と言うお話ではありますけど、、、。

鶏肉に関しても、鶏肉消費量トップのイスラエルはその他の肉の消費量も多いので、これも決定的とはなりません。鶏肉消費量が多い国は中近東からパキスタン~アフガニスタンにかけてのイスラム国家が多いのですが(チキンピラフの国々です!)、いずれも高齢者人口が低いので、参考になりません。

日本と韓国との比較においても、そもそも両者の羊肉消費量が絶対的に少ないですので、比較出来ません。かろうじて鶏肉消費量において日本が韓国を上回り、同時に大腸ガン罹患率が低いので、ここから「鶏肉=鉄分少ない=やはり鉄分は悪者」と言う結論を導きたいと言う誘惑が生じますが、これだけでは証拠が少なすぎます。

結局、食肉中の鉄分の役割は「共犯者」程度に止めておくのが、現段階では無難かと思われます。

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このページは、喜源テクノさかき研究室が2014年4月28日 09:27に書いた記事です。

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