お焦げとガンについて-13

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主犯は?

これまで述べてきた肉と調理法と発ガン物質との関係に加え、現場に於ける状況証拠の積み重ねから、ほぼ犯人像は絞られてきたと思います。アメリカにおけるバーベキューやステーキ、デンマークやウルグアイの牛のスペアリブのグリル、そして韓国の朝鮮式焼き肉など、これらは全て「直火焼き」調理によるものです。従いまして、直火焼きによる焼き肉、特に牛肉や豚肉のそれに、疑いの眼差しが注がれます。

様々な種類の有機物の固まりであるこれらの肉を直火で加熱する事によって、肉を構成する有機物は化学反応を起こし、色々な種類の化合物を生成します。有機合成化学の実験室では色々な物質を試験管に入れてバーナーで加熱し、様々な化合物を合成する実験を行いますが、加熱する理由は、それによって合成速度を高めるためです。極端な事を言えば、肉を高熱で調理すると言う事は、将に有機合成化学の実験室で行っている様な実験を家庭の台所で再現する事、とも言えます。

高熱調理した肉中に新たに発生する有機化合物の大半は無害ですが、中には「細胞変異」を起こす様な物質も生じます。これらの高熱調理によって生じた物質の中には、これまで述べてきたヘテロサイクリックアミン(HCA) の他にも、量は少ないですが、タバコなどに検出される有名な変異原物質であるベンゾピレン なども含まれます。
試験管的実験や動物実験などでは、結果の因果関係を明らかにするために、例えばPhIP やMeIQx 、或いはベンゾピレンなど、それぞれ単独の物質に関して実験を行うのが普通ですが、実際に高熱処理した食肉を食べる場合には、これらの物質を全て混合した形のものを一緒に体内に摂取する事となります。そうしますと、これらの物質の体内における相互作用なども考慮に入れる必要が出てきます。その意味でも、実験室での実験結果をそのままヒトに適用する事は出来ません。
最近では色々な種類のHCA を混ぜて動物に与える実験も行われておりますが、これらが相乗的に働いている可能性を示唆する報告も存在します。


化学発ガンの歴史

そもそも、環境因子がヒトの発ガンに深く関わっている事が強く疑われる様になった切っ掛けは、18 世紀のロンドンの煙突掃除人の間で高頻度に見られた陰嚢ガンの事例によるものです。これは、「石炭」と言う有機物の固まりを燃やした後に発生する煤(スス)中に発ガン因子が存在し、これに煙突掃除人が高頻度に暴露した結果生じたガンです。

これが切っ掛けとなり、発ガン物質の探索が始まりました。そして大正時代、日本の山際勝三郎博士と市川厚一博士によるウサギの耳へのタールの塗布によるガンの発生成功を嚆矢とし、爾来、ナンかいきなり文語調となりましたが、多くの発ガン物質が発見されて参りました。

そして現在、石炭の煤煙中に含まれるPM2.5 やジーゼルエンジンから排出される排気ガス、植物の葉っぱを燃やしてわざわざ肺の中に入れると言う神をも恐れぬ所行である喫煙など、「複雑な組成の有機物を高熱処理する事によって発ガン性物質が生じる」事には、殆ど疑いが無いと言って良いかと思います。


素朴な疑問として、次の様な質問を想定して見たいと思います。
 
Q-1:人類は昔から火を用いて肉を料理し、食べてきた。特に直火の料理は最も原始的で、ある意味自然に近いと思う。それなのに何故、それが発ガンと結びつくのか?何かの間違いでは無いのか?

以下にその答えを羅列してみます。

A-1-1: 火を使うのは人間だけ
地球上には何万の種類の生物種があるのか知りませんが、間違い無く、火を日常生活の中で使用し、食物を加熱調理して摂取するのは、人間だけです。その意味で、火を使うこと自体が既に「自然」とは程遠い行為です。

A-1-2:発ガンは高齢化と強く結びついた現象
ガンがこれほど問題化する様になったのは、文明が発達してヒトが長寿になったからです。それ以前は、ガンになる前に死亡してしまうのが殆どでした。そう言う意味から言っても、先の18世紀のロンドンの煙突掃除人のお話は希有な例と言えますし、石炭から発生するススの発ガン性の強さを物語るものかと思います。

Q-2:エスキモーは生肉100% の生活を送っていると聞く。彼等にはガンは無いのか?」

A-2:これは分かりません。現在のエスキモーが昔と同じ様に生肉100% の食生活を送っているとは思えませんので、現在の彼等のデータは参考にはならないと思います。
少し調べてみましたが、20世紀初頭あたりのエスキモーの病気に関するデータがあるとの事でした。それによると、エスキモーにはガンは殆ど見あたらないとの事らしいです。しかしながら、そもそも基本的に「発ガンは高齢化と結びついた現象」ですので、過酷な環境下で生活し、当然短命であったはずの昔のエスキモーを対象とした発ガン率の調査結果には意味が無い、と思います。
加えて、以前にも指摘しましたが、特徴的であるとは言え、人口的に少数の集団のデータを他の集団と比較検討するのは不適当だと思いますので、仮に発ガン率が低かったとしても、「参考意見」程度にしかならないと思います。逆に発症率が顕著に高かったとしたら、これは発ガンに関する有益な情報をもたらす切っ掛けとなる可能性があります。この場合でも飽くまで「切っ掛け」であって、決定的ではありません。

Q-3:生肉を食べるべきか?

A-3:再三再四申し上げますが、ガンは高齢化と強く結びついた現象です。高齢になる前に、寄生虫でお陀仏になるのは如何なものかと思います。

Q-4:じゃ、どうすりゃエエネン!

A-4:質問者はフィンランドの方ですか?(やはりシツコイwwww)その答えは、このシリーズ最後で申し上げたいと思います。本日はこれまで!



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このページは、喜源テクノさかき研究室が2014年4月27日 09:17に書いた記事です。

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