学会報告-6

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みなさまお早うございます。今日から三連休ですね!ひたすら嬉しいです!!!

今月に入ってから生産現場に入り浸りですので、体もへとへと・・・。連休でゆっくり休めて助かります。でも、連休明けから再び現場へ行かなくてはなりませぬ。次の4月29日の天皇誕生日、今では「昭和の日」だそうですが、まで、みっちりと老体にむち打って肉体労働に励まなくてはなりませぬ。でも、5月の連休が終われば、今度は「首から上の」肉体労働の日々・・・。どっちみち肉体労働に変わりは無いようで・・・。

さて、世間を騒がすSTAP細胞、まだまだ決着がつかないようですが、仮に細胞が本物であるとしても、かっぽう着のお姉さんを初めとする当事者の方々、最早社会的には***と言うカンジです。ここまで色々出てくると、もうセンセなんぞは興味も失せてしまいますが、今回の事件によって、今後専門誌に論文を投稿する際には、従来にも増して枝葉末節にいらぬお世話のメスが入るのかと思うと、こちらの方が本当にげんなりしてしまいます・・・。

さて、今回の学会報告は、昨年秋に東京農大で行われた日本乳酸菌学会セミナーから一題選んでご紹介致します。

もう何年も前になりますが、センセがとある場所で講演した時、一人の聴衆の方から質問がありました。それは、「ビフィズス菌を体に注射してガンを直すと言う試みについてどう思うか?」と言う内容でした。それは初耳でしたので、「分からないが、医学的常識から考えてあり得ないと思う」と答えた様に記憶しています。今回のセミナーでは、信州大学の先生が「ビフィズス菌を利用した固形がん治療の試み」と題した講演を行い、将に上記の試みが可能である事を発表しておりましたので、これをご紹介致します。

ガン組織というのは、基本的に、低酸素かつ低pHの環境にある事が知られています。簡単にその理由を述べますと、ガン細胞が無秩序に増殖するに伴って血管も新生されますが、血管新生もまた無秩序ですので血流も滞りがちになります。その結果、ガン組織には酸素が行き渡らなくなりますので、ガン細胞は低酸素状態でエネルギーを作りだそうとします。そうすると乳酸が産生~蓄積して来ますので、ガン組織の環境は低酸素~低pH状況となりがちです。

1950年代の昔、とある学者が、担ガンマウス(実験的にガンを作らせたマウス)に破傷風菌の芽胞(がほう)を静脈注射する、と言う実験を行いました。その結果、ガンを持たない非担ガンマウスは生き残った一方で、担ガンマウスは死んでしまいました。その学者が出した結論は、「嫌気性菌(酸素を嫌う細菌)である破傷風菌の芽胞は低酸素環境のガン組織で発芽し、そこで毒素を産生した結果、その毒素でマウスが死んだ。非担ガンマウスの場合には低酸素の環境が無いので、芽胞は発芽せずに排除されてしまった結果、生き残った」と言うものです。

信州大学の先生はこの実験に触発され、次のような実験を行いました。同じ嫌気性菌でも、破傷風菌の様な病原菌では無く、無害な菌であるビフィズス菌に、ある種の遺伝子を組み込んで、これを担ガンマウスに注射します。同時に、同じマウスに抗ガン剤を注射します。一般的に抗ガン剤は患者にとって副作用が大変強い訳ですが、この時注射する抗ガン剤は毒性の低いものを使用します。注射されたビフィズス菌は血流に乗り、やがてガン組織にたどり着きます。ガン組織は嫌気的環境であるためにビフィズス菌にとって居心地がよいので、その場にしばらく定着する事となります。同時に、低毒性の抗ガン剤もガン組織に到達しますが、低毒性であるために、このままではあまり効果がありません。

実は、注射されたビフィズス菌には、この低毒性の抗ガン剤を強力な抗ガン剤に転換する作用を持った酵素を産生する遺伝子が組み込まれています。即ち、低酸素環境であるガン組織に定着したビフィズス菌がその場で酵素を産生する結果、弱い抗ガン剤が強い抗ガン剤に将にガン組織局部で変化しますので、狙ったガン組織にピンポイントで抗ガン効果が発揮されるだけでなく、体全体への副作用も大いに軽減される、と言う訳です。ナカナカの戦略ですね!

センセが聴衆からの質問に対して「医学的常識からあり得ないだろう」と答えた理由は、

 

1. 菌が血管内で詰まって栓塞を引き起こす可能性がある事

2. 血液中の補体などの非特異的抗菌成分によって急速に死滅する可能性がある事

3. 網内系と呼ばれる血液クリアランス機序によって、菌が血流から急速に排除される可能性がある事

4. 仮に定着しても、やがてサイトカインが産生され、炎症が生じる可能性がある事

5. 数回に亘る注射により、ビフィズス菌に対する抗体が産生される可能性がある事

 

などによります。

しかしながら、信州大学の先生によると、まず栓塞を引き起こすような数は注射しないと言う事、また、菌は排除されずに局部に留まる事、さらに、炎症性サイトカインも抗体も産生されないとの事でした。

ビフィズス菌を用いた注射によるガン治療が実際に臨床に応用されるかどうかはまた別の話ですが、センセが最も驚いた事は、この様な、生体のビフィズス菌に対する無反応性です。ビフィズス菌の様な、いわゆる善玉菌が、腸管内で「免疫寛容」を獲得している可能性は大いにありますが、それが体の中でも発動されると言う可能性に驚かされます。信州大学の先生が用いたビフィズス菌はBifidobacterium longumbifidum と言う種類の菌で、一般的に流通しているものだと思います。仮に、個人の腸管内にそもそも住んでいるビフィズス菌を採取して増やし、これをその個人の体に注射するとしたら、より一層免疫寛容効果が働き、安全がより高まる可能性も考えられます。

信州大学の先生のお話では、初めは論文を投稿しても全く受け付けてもらえず、10年経って漸くaccept される様になった、との事でした。先月にお話しした乳酸菌を用いた多能性幹細胞のお話をされた先生も同じような事を言ってました。「みんなそうなんだなあ~」と、大いに励みになります。

坂城の研究所のセンセも、たとえA 誌で速効でreject されようが、B 誌でボロクソに言われて何度も書き直しを命じられようが、凹まずに、気持ちを強く持って、何度でもチャレンジして行かなくてはなりませぬ!

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このページは、喜源テクノさかき研究室が2014年3月21日 10:38に書いた記事です。

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