今月のウクライナ-81

日本のサッカーチームは惜しくも負けてしまいましたが、
おかげで夜はぐっすりと眠れるようになりました。

さて、
フン族の侵入によって蜂の巣をつついたような騒ぎとなった欧州ですが、
その後も陸続としてアジアからの戦闘的遊牧民の侵入が相次ぎます。
今回からはしばらく柔然~エフタル~突厥と続き、
その後にスラブ~ブルガール~イスラムのお話に継続していきます。
今月のウクライナ-49」、「同-56」、「同-59」辺りをまずはご参照ください。

で、混乱の続いた五胡十六国時代ですが、西暦 386 年、
鮮卑(せんぴ)の拓跋部(たくばつぶ)によって北魏が打ち立てられ、
一応の安定を迎えます。
で、この頃、北魏のさらに北では
柔然(じゅうぜん)と呼ばれる連中が勢いを増してきました。

この柔然というのが、これまた相当にユニークな連中なのです!

柔然.jpg4 世紀後半の中央アジアの状況  ウイキより


「今月のウクライナ-49」では※のところで、
センセは「柔然はモンゴル系であろう」なんて書きましたが、
最近の考古学~人類学~遺伝子学の結果から、
いやいやそんな単純なものではない、と考えるようになりました。
たぶん、言語はモンゴル系の言葉を話していたと思われますし、
(より正確に言えば、モンゴル系に変わっていた、あるいは
多くのモンゴル言語を借用していた、と言うべきかな?)
文化は典型的な「戦闘的遊牧民」のそれであったと考えられますが、
連中の元々の出自は驚くべきものである!可能性があります。
その話は後に取っておくとして、まずは初めに
烏桓(うがん)、柔然、アヴァールの関係について見ていきます。

紀元前後あたりから匈奴の連中が強大となってきますが、
その匈奴に隷属していた連中が烏桓です。
漢王朝からは東胡(とうこ)を構成する部族の一つ、
と認識されておりました。

で、現代日本語読みでは烏桓は「うがん」ですが(烏丸とも書きます)、
古代中国読みでは「あ・ふぁん」みたいなカンジだったらしいです。

で、アヴァールという名称は、欧州に侵入してきた彼らを
ビザンツの連中がそのように呼んだのが始まりらしいですが、
欧州侵攻の途中、たぶんウクライナ辺りで遭遇したロシア(ルーシ)の記録では
オーブルと呼ばれてます。
で、「あ・ふぁん」、「オーブル」、「アヴァール」ということで、
繋がりが認められます。

で、じゃ「柔然って、何?」ということですが、これは
当時の中国音では「にゅんにぇん」とかいうカンジの発音だったみたいで、
書き方としては柔然以外にも、「蝚蠕、蠕蠕、茹茹、芮芮」などなど・・・。
読み方はどれも似たようなカンジです。
で、「匈奴!」とか、「鮮卑!」とか、いかにも凶暴で強そうな名前じゃなくて
なんでにょんにょん~にぇんにぇん~みゅんみゅんとか
パンダみたいな名前つけたのか?茹茹って、蒟蒻(こんにゃく)みたいだ!
って、実際、こんにゃくのイメージらしいです!

色々説はあるようですが、次の説が有力です。

当時の戦闘的遊牧民のトーテム、すなわち
「我々の先祖はワシ~カバ~ライオン~クマなり!」とか、
結構どの民族でもやりがちなことですが、
モンゴルとかトルコとかの連中の間では、多くの場合、
オオカミをトーテムとしていました。
後の世の「蒼き狼」、ジンギスカンなどで有名ですね!
現代のトルコなどでもオオカミは神聖視されています。

で、柔然の連中もオオカミをトーテムとしていたらしいのですが、
これを明らかな言葉で呼ぶことをせず、
逆説的な「隠語」言葉で表していた、
すなわち、全然強そうじゃない言葉で自分たちのトーテムを呼んでいた、
ということらしいです。
その結果が「にょんにょん・・・。」
いったいにゃんでしょういうことするにょきゃ、わきゃりましゅえんが・・・。

実際のところ、このにょんにょん的言葉はイモムシとかミミズとかヘビとか
そういう類のにょろにょろするものを表す言葉だそうです。
で、本来的な彼らの民族名というか部族名は、アヴァール系であったようです。
で、このアヴァールという言葉そのものも、
中世モンゴル語の abarga からきた可能性が指摘されており、
この abarga は、蛇や蠕動(ぜんどう)を意味する言葉らしいです。

こういう隠語遊び的なことは
いわゆる「業界」の方々がいかにもやりそうなカンジですが、
戦闘的遊牧民もまた堂々とやらかす、ということでしょうか・・・。
中国側の他称である可能性もありますが、自らそのように名乗った、
という記録もあります。良く分かりません。

で、ここで一つ、個人的に、疑問が生じます。

この「にょんにょん」言葉がにょろにょろ系を表す言葉であることは
日本人では感覚的にすぐ分かりますが、これは偶然の一致なのか、
それともどのような民族でも共通する感覚なのか、ということです。
ネコやイヌの鳴き声は、ま、多少の違いや個性はありますが、
どのような民族でも似たような表現ですし、その理由も明らかです。
けれども、「音」ではなく、動きを表現する「にょろにょろ」って、
文化を共有していない民族間で通じるものでしょうか?
専門的には、前者が擬音語、後者は擬態語と呼びます。

いまちょとグーグルで調べてみましたが、
英語でにょろにょろに相当する言葉は Wriggle で、
にょろにょろとは似ても似つきません。そもそも英語は
日本語ほどには擬音語(オノマトペ)や擬態語は多くないようです。

であるとしたら、
柔然と日本人、何らかの関係がある、とは考えられませんか???
これは最初にお話した「柔然はユニークな連中だ!」
というのと関係してくる可能性もあります。
面白くなってまいりました!

と思いましたが、よく考えると、これは中国語である可能性もあるわけです。
で、♪ リンリンランラン龍園でも分かるように(知ってる?)、
中国語の擬音語や擬態語は、日本語と同じように、
同じ言葉が二回続くのが多いです。
で、現代中国語の「にょろにょろ」に対応する擬態語を調べたところ、
蜒蜒蜿蜿蜿蜒(えんえん)が該当するとのことでした。
んんん~~~、柔然=にゅんにぇん、とよく似てる・・・。

ということで、
先のセンセの仮説は早くも破綻をきたす結果と相成りました・・・。
残念!