今月のウクライナ-12

さて、ロシア軍の情けなさは目を覆うばかりですが、
今回、目の当たりにしつつあるデジタル兵器による戦いぶりには、
多少は軍事に詳しいと一人でほくそ笑んでいたセンセですら
ビックリするばかりです!

第二次大戦の東部戦線で反転攻勢を開始したソ連軍の戦い方といえば、
数キロにもわたる戦線にみっしりと野戦砲やスターリンのオルガンを配置し、
猛烈な一斉射撃を行うと同時に多数のヤクが空を覆い、
射撃が止むと同時におびただしい数の T-34 が轟々と進撃を開始する、
というのが定番でしたが、
今回は相手をなめてかかったことから戦車の数が少ないのは良いとしても、
お行儀よく舗装路を一列で行進し始めたと思ったら
どこからか飛んできたドローンやらジャベリンやらで先頭車両がやられ、
右往左往するうちに全部ボコボコにされるという・・・。

ソ連の放列.jpg東部戦線におけるソ連軍の野砲の砲列 ウイキより

スターリンのオルガン.jpgスターリンのオルガンことカチューシャロケット砲 
へびのぬけがら様より
https://plaza.rakuten.co.jp/cobraxtuchi/diary/200702060000/

クルスクの戦い.jpgクルスク大戦車戦 映画「ヨーロッパの開放」より


YouTube のウクライナ発のニュース動画を見る限り、
少なくとも防御にまわるウクライナ側では、
おなじみの「対戦車砲」やら「高射機関砲」などは認められず、
ジャベリンやスティンガーのような携行型の対空、対戦車兵器ばかりです。

で、これらが実に性能が良い!

いわゆるバズーカ砲に代表される対戦車ロケット弾は
1938 年にスイスの軍事見本市でお披露目されたのがはじめてで、
成型炸薬効果=モンロー効果を利用した新規発想に基づく対戦車兵器です。
成型炸薬効果についてはググって下され!

戦車と対戦車砲とは矛と盾の関係、というのが基本ですので、
戦車は装甲をより厚く、車高をより低くする方向に向かう一方で、
対戦車砲は貫通力を増すために、
初速をより速く、弾をより固くする方向に向かいます。
待ち伏せするためには対戦車砲は基本、なるべく小型化したいわけですが、
そうすると口径も大きくできず、貫通力も限定されてしまいます。
そのため、ソ連の新型戦車 T-34 が登場して
従来の対戦車砲では歯が立たなくなったドイツ軍は、ためしに、
本来は対空兵器であった 88 mm 高射砲を戦車に応用したところ、
大きな成果をあげたというお話は有名です。
ただし、大きな外観からすぐ分かるように、
待ち伏せ型の兵器としては使い勝手が悪かった、と思います。

88 mm.jpgドイツ軍 88 mm 高射砲 一人で歩いて行く人様のブログより
https://blog.goo.ne.jp/kodoku44/e/e8fc6b99c5fb2691f929f4189f851b1b


成型炸薬効果を利用した対戦車ロケット弾は
このような従来の対戦車攻撃の常識を形骸化しただけでなく、
安価であると同時に小型化が可能ですので、
大戦中の米軍ではバズーカ砲として、
ドイツ軍ではパンツアーファウストとして、
日本軍でも刺突爆雷(しとつばくらい)として使用されました。

バズーカ.jpgバズーカ砲 ウイキより

パンツアーファウスト.jpgパンツアーファウスト ウイキより

刺突爆雷.jpg刺突爆雷 「ちょ、ちょっとまっちくり~~~!」 ウイキより
日本軍、ロケット技術が発達してなかったので、
竹の先にくっつけて戦車に突撃したという情けないお話でありますが・・・。


ロシア戦車の表面には四角い箱みたいなのがたくさんくっついてますが、
あれは戦車兵用の「日の丸弁当箱」ではありませぬ!
あれはバズーカ除けの工夫なのです。
大戦後期の欧州戦線に登場するドイツのタイガー戦車やパンツアー戦車、
装甲上にセメントを塗り付けていたり、あるいは、
軌道部側面を薄い装甲で覆っている車両がしばしば認められますが、
これらもバズーカ除けです。
そのメカニズムに関してもググって下され!

ロシア戦車.jpg弁当箱をたくさんつけたロシアの戦車 CNN より
上部の覆いは急遽に現地で取り付けたジャベリン除け


ニュース動画を見る限り、
これらの通常型の成型炸薬弾は
小銃の筒先に付けたりして使用することもできるので、
現行のウクライナでも普通に使われているようです。
これらは誘導装置が無いので安価ですが、
ジャベリンや対空兵器のスティンガーには誘導装置が付いているので、
一発につき数千万円、と高価です。
ドローンにも高価なものと安価なものがあり、
それぞれ使い分けしているようです。

ジャベリンなどは一旦目標を設定して発射すると、
後は自動的に相手に向かって突進し、
多くの場合、目標手前で一旦上昇し、そこから降下して、
装甲の薄い戦車の上部にヒットします。

一発数千万円もするわけですが、
やられた戦車は数億円もするので、十分にペイします。
加えて命中率が 9 割以上もあるようなので、恐ろしい兵器であると言えます。
西側は直接兵隊を送らない代わりに、
多数のジャベリンの供与を約束しています。
防御を専らとするウクライナ側は取りあえずはこれで乗り切って頂きたいと、
バイデン始め西側首脳陣は思っていることでしょう。


さて、今後の展開を考えてみたいと思います。

ロシア側は明らかに戦略を変えているようです。
キエフの確保が無理そうなので圧力の方向を変え、
まずはマリウポリを制圧して東部沿岸を押さえたい、
という形を取りつつあるようです。
一旦マリウポリを制圧して東南岸線を確保すれば、
次の目標がオデッサであることは明白です。

で、センセの見立てとしては、
ロシアは、全力を挙げてオデッサを確保した後、
漸くゼレンスキーと本格的な交渉に入る、と考えてます。
すなわち、オデッサを交渉の最大のカードとして用いる、と思います。

なぜか。簡単です。

オデッサが陥落すれば、ウクライナは黒海へのアクセスが消滅するためです。
従いまして、プーチンは、ゼレンスキーから最大の譲歩を引き出すために、
陥落させたオデッサを返還すると思います。

これで NATO 非加盟を確約させると同時に東南部は確保し、
ゼレンスキーには花を持たせ、
ウクライナも、取り合えずは引き続き存命可能となることで、
西側のこれ以上の介入も封じ込めることができます。
また、国内では、東部ロシア系住民の安全保障を勝ちとった、という形で、
侵攻の正当性も確保でき、
その結果、支持基盤も、取りあえずは、揺るぐこともない、と思います。
オデッサ返還を餌にして、恐らく、
ウクライナの軍備縮小も勝ち取る可能性があります。

さらに言うなれば、大きな犠牲を払って獲得したオデッサを譲歩することで、
「あれは平和のために譲歩したオトコであるよ!」との「賞賛」を、
少なくともロシア国内において、獲得する可能性すらあります!

もちろん上記推論が有効であるためには、
ロシアがオデッサを遅くとも年内に陥落させる必要があります。
これを過ぎると、プーチン自身の存続が危うくなります・・・。

で、ウクライナは、全力を挙げてこれを阻止しなくてはなりませぬ!

オデッサの場合、東方陸上からの攻撃もさることながら、
海上からの攻撃が大変に有効です。

そこで、ウクライナとしては、対艦ミサイルが重要となってきます。
先日も、ベルジャンシクのロシア揚陸艦を
対艦ミサイルで破壊することに成功しました。

で、先日、バイデンがウクライナに対艦ミサイルを供与すると言ったのは、
ここら辺の事情に基づいて述べた可能性があります。
加えて、出来れば、ケルチ海峡にかかる大橋を破壊してもらいたいです。
手持ちのミサイルで破壊は無理でしょうから、
決死の白たすき隊を組織して、ナントか爆破に成功してくだされ!

2 月にはバルチック艦隊の揚陸艦数隻が黒海艦隊と合流しているようですが、
現時点ではエルドアンがボスポラス海峡を封鎖しているので、
ロシアとしてはこれ以上、海上からの援軍を望むことはできません。

黒海艦隊に Z 旗を上げさせてはなりませぬ!

バイデンが供与する対艦ミサイルがどのような効果を発揮するか、
今後も目が離せない状況が続きます。

今回は、昭和 47 年(1972 年)のサンケイ新聞社発行、
第二次世界大戦ブックスシリーズ中の一冊、「大砲撃戦」に多くを負うてます。
ホントに古い本でスイマセン・・・。