日々のお話: 2018年5月アーカイブ

今月の書評-18

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さて、今回はミトコンドリアDNA 分析についてお話します。
まず、ミトコンドリアについて簡単に説明いたします。

ミトコンドリアは、細胞核やゴルジ体などと同じく「細胞内器官」の一つで、主としてエネルギーの産生を司っています。
顕微鏡で観察すると細菌のように見えますので、これを最初に見つけたヒトは「これは細胞内に寄生している微生物だ!」と思ったそうですが、ガン無視されました。けれどもその後1967年、アメリカの女性生物学者であるマーギュリス博士が再び寄生説を唱え、現在ではこの「寄生説」が支持されています。

ミトコンドリア.jpg

ミトコンドリアは医学~生物学~生化学~進化論、そして人類学においても極めて興味深くかつ重要なものなので、これを解説し始めるときりがなくなります。
ですので、ここでは縄文人に関して重要な以下の点だけ覚えてくださればOK です。

1) 細胞核遺伝子とは独立した遺伝子を持っている。
2) DNA のサイズが小さいので、分析しやすい。
3) 細胞中にたくさん存在しているので、遺跡から出土した人骨の中にも残っている確率が高い。
4) 受精時、卵子のミトコンドリアは受精卵に受け継がれるが、精子のミトコンドリアは受け継がれない。そのため、母親のミトコンドリアは子孫に受け継がれる一方で、父親のミトコンドリアは受け継がれない。従って、Y 染色体が男系を伝う一方で、ミトコンドリアは母系を伝う。

縄文人の場合に最も重要なのは3 で、前回のY 染色体のお話はすべて現代人のサンプルを用いてのものでしたが、ミトコンドリアのDNA を用いた分析(mtDNA と略します)では、出土した縄文人の骨から直接得られたサンプルを用いて分析ができるという強みがあります。
また、母系の分析となりますので、YDNA と合わせれば、ナカナカ興味深い結果が得られることが期待されます。

で、前回のYDNA と同じく、縄文人をいくつかに分類します。アイヌのご先祖様、本土縄文人、沖縄のご先祖様などなどです。お話が進むにつれて、現代人のmtDNA に関しても言及していくかも知れません。
また、YDNA と同じくA だのB だのC だの、さらに加えてA2 だのB3 だのC4 だのごちゃごちゃします。ですので、本当に申し訳ないのですけれど、YDNA と混同なさらぬようご注意ください。


今月の書評-17

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最近、NHKの特番で、人類の進化史が放送されてます。
特定の仮説が強調されすぎるきらいはあるものの、各種最新のデータがちりばめられていて、ナカナカ面白いです。
本日午後9:00 の放送ではネアンデルタール人とクロマニヨン人との関係がテーマとなるようですが、ペーボ博士のデータに基づき、両者の間にある程度の混血が生じた可能性を放送するかと思います(先取!)。また、イギリスに最初に定住したホモサピエンスの肌の色は黒かった、などという点も、今後の放送で(あるいは今日?)述べられるかも知れません。

さて、再び縄文人です。

Y染色体のDNA(YDNAと略します)分析から、現代日本人男性の特殊性が指摘されます。それは、現代日本人男性のおよそ半数が縄文人の遺伝子タイプを引き継いでいる、という点です。
このような遺伝子タイプを、前回でも述べたように、ハプロタイプと呼びます。
単なる「タイプ」、あるいは「パターン」と呼び換えても全く問題ありません。

で、現代日本人男性を四群に分けます。一つは本州の男性群、二つは北海道のアイヌ民族の男性群、三つめは沖縄本島~奄美群島の男性群、四つ目は、宮古島~八重山諸島の男性群です。

以下、YDNAのハプロタイプを述べていきますが、A だのB だのC だの、さらに加えてA2 だのB3 だのC4 だのごちゃごちゃします。加えてこの後、ミトコンドリア遺伝子分析に基づいたハプロタイプのお話もしますが、これも同じくA2 だのB3 だのC4 だの、YDNAと同じくアルファベットと数字との組み合わせでタイプ分けしていきますので、読んでる皆様は相当に混乱するかと思います。
申し訳ないです。
でも、これを分かりやすく勝手に改変するのもどうかと思いますので、ごちゃごちゃして本当に申し訳ないのですけど、そのまま使っていきます。
覚悟のほどを!

このA だのB だのC だのというのは、アフリカを出発したご先祖たちがそもそも持っていた遺伝子タイプ(仮にA とします)から、時間が経つにつれてB のタイプを持つものが現れた、と考えてくれればOK です。A1 とA2 の違いは、より大きな括り(くくり)でみれば両者ともA タイプに属するが、細かくみると少し異なる、というカンジでOK です。

で、現代の本州の日本人男性群が持つYDNAのハプロタイプは、東北~北陸~関東で40%を占めるD2 タイプが優勢です。D2 は、関西では20%です。
アイヌ男性ではこの割合がさらに高く、90% 近くに達します。
さらに沖縄本島では40% であるのに対し、先島諸島では4%と極端に少なくなっています。このD2 タイプは朝鮮半島~中国大陸にはほとんど見られません(チベットを除く)。このことから、D2 タイプは縄文人(あるいは縄文前の旧石器時代人)に由来するタイプであることが確実です。

現代日本人に多かれ少なかれ縄文人の形質が伝わっていることは日常的にもしばしば目に付くことも多いわけで、また東日本と関西との間の様々な違いを普段から感じている我々としてはそんなに驚くことではないようにも思われますが、遺伝子レベルで見ると実に(東日本の)4 割もの男性が受け継いでいるという事実を改めて示されると、確かにビックリします!
また、沖縄本島の住民と本州東日本の住民との間で同じく4 割というのも意外ですし、さらに沖縄本島と先島諸島との間で大きな違いがあるのも興味深い点です。これに関しては、先々議論したいと思います。

さて、縄文を引き継ぐD2 のお次は、O2b タイプです。
O2b は、アイヌで0%、本土で35%くらい、沖縄本島が30%くらい、八重山では67%も占めます。朝鮮半島では51% を占めることから、O2bタイプは弥生由来であると考えられています。

お次はC3 タイプ。
C3はユーラシア大陸東部に広く分布し、特にシベリアに多いタイプです。アムール川流域の狩猟採集民がC3の祖とする研究もあり、いわゆる典型的な「モンゴロイド」の祖であるか?とも考えられています。
アイヌで12.5%を占めますが、本土ではわずか。一方、九州に比較的多い(8%)のに対し、南方の沖縄では0%。朝鮮では12%。
アイヌと九州で多いことから、細石刃文化を伝えた人たちが持っていた遺伝子タイプではなかろうか?と考えられていますが、個人的には違う!と考えています(今月の書評-10 を参照)。

最後にO3 タイプ。
いわゆる「漢族」に優勢なタイプです。
華北の漢族で66%、朝鮮33%、満州38%、モンゴル23%。華南の漢族で33%、台湾漢族60%、ミャオ族60~70%、ベトナム41%、マレーシア31%。
日本では、アイヌ0%、本土10~20%、九州26%、沖縄本島16%。
恐らく、歴史時代になってからの中国の戦争(春秋戦国とか、あるいはその後)の時代に広く拡散し、流れ流れて日本列島にも達したと思われる人々です。

その他少数派のタイプがいくつかあり、いずれも日本人の特質を形作るのに貢献していますが、あまり細かく述べても混乱するばかりなので、大体この4 種のタイプを参考にして考えていけば十分だと思います。

では、一旦ここまで!




今月の書評-16

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天気予報通り、夜から朝方にかけては雨。昼までにはやみました。
本日は大人しく縄文人の続きを書きます。Y染色体のDNA分析です。

現代人の男性に由来するY染色体からのDNA(=YDNAと呼びますね!)を分析しますと、色々なタイプに分類できます。そのようなタイプのことを、「ハプロタイプ」と呼びます。単に「タイプ」とか「パターン」とか言っても全然かまわないのですが、ちょいと学術的な味付けをするために、類書に従って、かっちょよくハプロタイプと呼んでいきます(ハプロの意味はググってください)。

DNAを調べることでなんで人類の(長い)歴史~拡散が分かるのか、極々簡単に説明します。以下、DNA、ゲノム、遺伝子、塩基、ATGC、二本鎖DNA、変異などなど、皆さん既にご承知の概念であると仮定して、お話していきます。

細胞が分裂するとき、遺伝子の複製が生じます。必然的に、ATGC よりなる塩基配列も全く同じ配列として受け継がれます。
けれども、偶然であろうが必然であろうが、時々間違いが生じます。A となるべきところがT となったりするわけです。
多くの場合、そのような間違いは細胞の段階で排除されますが(排除する仕組みがあるのです)、排除されずに残る場合もあります。
そのような間違いが生殖細胞の遺伝子上で生じ、排除されずに受精に至った場合、次のような経過を取ります。

1) 生まれる前に、死んだ。
2) 生まれた。けれど、生殖年齢に達する前に(環境に適応できずに)死んだ。
3) 生まれた。他の人々と全く変わらず普通に生きた。
4) 生まれた。他の人々よりもより良く環境に適応し、他の人々よりも多くの子供を残した。

遺伝子上でDNA の複製時に間違いが生じ、それが固定し、何らかの形質的な変化が生じた場合、これを「変異」と呼びます。突然変異の変異ですね!
上記の1~4 の違いは、変異が生じた遺伝子の生存上の重要性の違いによって生じます(ちょと難しいですね・・・)。
要するに、生存する上で重要な遺伝子ほど、わずかな変異も許さない、という基本原則があるのです。従いまして、そのような重要遺伝子では、バクテリアもホモサピエンスもほとんど同じ塩基配列を有する、などという現象が生じます。

ということは、生存上必ずしも必須ではないような形質に関与する遺伝子においては、重要遺伝子よりもより多くの変異が生じていると考えられます。
さらには、ゲノム上には形質をつかさどる遺伝子以外に多くの役に立たない(とこれまで考えられてきた)DNA 領域が存在しますので、これらの領域の塩基は遺伝子上の塩基よりもより頻繁に変化する、と考えられます。
そしてそのような変化の多くは偶然に生じると考えられますので(あるいは偶然に生じると仮定して)、たくさんの例数を平均化すれば、ある決まった期間に1 個の変化が生じるとみなしてOK!と考えられるのです。難しい???

ここまで分かれば、後は1 個の変化が生じる期間を決めれば良いだけです。

DNA の塩基配列の変化速度が決定される以前、様々な動物種のヘモグロビンタンパク分子を構成するアミノ酸を調べ、その違いの数と、各動物種の分岐時期とを比較する試みが行われました。いわゆる「分子時計」です。動物の分岐の年代は、化石やアイソトープによる測定法で決定します。
で、その結果、アミノ酸の変化数と動物種の分岐時期との間に直線的な相関があることが分かり、計算の結果、1 個当たりのアミノ酸が変化する速度を(大雑把ですが)推定することができるようになりました。
アミノ酸はまさに遺伝子の塩基配列によって直接的に決定されますので、ほどなく1 塩基の変化に要する時間が推定されるようになりました。

ここで注意して頂きたいことは、この推定が成り立つには「塩基の変化は偶然かつ一定速度で生じる」と仮定されなくてはなりません。同時に、「絶対年代の測定は化石やアイソトープなどの方法で決定される」という点にも注意を払う必要があります。すなわち、DNA 分析による年代測定は、未だ必ずしも絶対的かつ正確なものではない、ということです。今後の展開によってはある程度の修正が加えられる可能性もある領域です。

さて、ヒトの起源を調べる場合などは、それなりの頻度で変化するようなDNA 領域をまず決めます。要するに、バクテリアとあまり変わらないような塩基配列を持つ領域を調べてもダメだし、ヒトの個人差が特定されるような変化に富む領域を調べても意味が無いわけです。
だもんで、適当な期間で変化するような領域を調べます。

で、このような方法で現代人男性のYDNA をたくさん調べ、分析していきますと、いくつかのパターン(ハプロタイプ)に分かれること、そしてそれぞれの起源(古さの順番)が分かるようになりました。

次回は、YDNA のハプロタイプに基づいた現代日本人の特徴についてお話します。





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