喜源テクノさかき研究室: 2014年1月アーカイブ

学会報告-1

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皆様、新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

お正月はどのように過ごされましたでしょうか?海外に出かけられた方も居られるかと思います。センセは親戚一同うち揃い、ごく普通のお正月を過ごしました。今年のお正月はとても暖かかったですけど、その後に長野に戻りましたところ、仕事明けの先週から気温が一気に急降下!最高気温も零度に近く、雪も降り出して、まことに厳しい冬の長野となっております。先日は工場の二階の水道管が破裂して一階まで水浸し!!!その後の始末が大変でした、、、。

北米やモンゴルなども氷点下-40~-50℃と言うモンの凄い寒さだそうで、これは長野あたりで鼻水垂らして水道管破裂にブーたれてる場合じゃ無いですね!その一方で南半球のオーストラリアでは50℃の熱風が吹き荒れていると言う事で、あまりの暑さにコアラがユーカリの木の上からボトボト落っこちてくるそうです。

「コアラかなわん!」と言っていたかどうかは知りませんが、、、。

熱波も寒波も温暖化の影響らしく、日本でもここ数年、暑い夏の年の冬には決まって日本海側は大雪に見舞われているカンジがします。大雪+オーストラリアの猛暑+円安で、長野新幹線、ではなくて北陸新幹線ですか今年から、には多くの外人スキー客が見受けられます。北信の飯山とか新潟の妙高とか、あの界隈のスキー場目当てなのでしょうね。一方で、途中の坂城で降りてくる外国人観光客は、まず皆無。何故でしょうね?坂城も魅力的な観光資源には事欠かないのですけど、、、。例えば坂城には、あの有名なネズミ大根があるし、それからネズミ大根がありますし、さらにはネズミ大根まであると言うのに、、、、。

 

・・・・・さて、新年あけの三連休を利用してブログの更新としゃれ込もう、と言う魂胆であります。今回から新たなコーナーを設けました。題して「学会報告」。昨年センセが覗いてみたいくつかの学会で発表された演題の中から、興味深いものを発掘してご報告しようと言う趣旨であります。でも難しそう~ですね!なるべく簡単に分かりやすく書いていくつもりですが、それでも難しい所もあるかと思いますので、そこの所はご容赦願います。

まず今回は、昨年7月に開催された「第20回 日本がん予防学会」のご報告を致します。

日本がん予防学会の場合、その名称から期待されるように、基本的に「がん予防」の見地から行われた研究の報告会の場ですので、センセの様な大豆麹乳酸菌発酵液の抗がん作用を研究している研究者にとっては興味をそそられる演題が比較的多いです。今回は、「ナノチューブなどに代表される新素材が発がん性を有する危険性」と、「肥満や高血圧などの生活習慣病と大腸がんの関係」に関連した演題について、かいつまんでお話しいたします。

石綿=アスベストによる中皮腫、広い意味での肺がんの一種ですが、に関しては、9年前、某企業の工場周辺において、工場従事者のみならず、周辺の住民の間においても、これが多発した事件が報道されて以来、既に多くの方がご存じであるかと思います。石綿が使用禁止となってから長い期間が経っておりますので、これがどういうモノか知らない若い方々も多いかと思いますが、丁度ガラス繊維のような形態をした鉱物の一種です。耐熱性~耐火性に優れますので、昔の懐炉や炬燵用行火(こたつ用あんか)などの火を使う小道具類や、或いは火災の延焼防止用として、建物の壁などに大規模に使用されておりました。ガラス繊維状の石綿を粉末状にして溶媒に混ぜ、スプレーを用いて大がかりに壁や天井に分厚く吹き付けておりました。作業員は、その危険性が明らかとなるまでは、マスクもしないで危険なスプレー作業をしていた訳です。

極めて微細な繊維状物質ですので、一旦これを吸引いたしますと、肺の奥深くの肺胞細胞まで入り込みます。これを排除しようとして、肺の中のマクロファージなどがたくさん集まって来てアスベスト繊維を貪食(どんしょく)します。貪食するのは良いのですが、アスベストは耐火性に優れるだけでなく、様々な化学薬品などにも耐性ですので、マクロファージはこれを消化する事が出来ません。仕方がないので、マクロファージは炎症系サイトカインを分泌して、さらに仲間のマクロファージや好中球などの炎症系細胞を呼び寄せます。結果、局部が炎症状態となってしまいます。それでもアスベストは消化されませんので、炎症状態が延々と継続し、慢性の炎症となる訳です。アスベストをお腹いっぱいに貪食したマクロファージは、これらを消化しきれずに、結局は自ら破裂して死んでしまいます。このとき各種の酵素をまき散らかし、これらの酵素が活性酸素発生の原因となりますので、結果、局部の細胞のDNAが酷く損傷を受けることとなります。その結果、損傷を受けた細胞ががん化していく訳です。

アスベストにはいくつか種類があり、中皮腫をよく引き起こすものとそうでないものがあります。中皮腫を引き起こすタイプのものは多くの鉄分を含んでいたり、或いは鉄分を付着する能力が高い事が分かりましたので、鉄の存在が中皮腫の発生にとって重要であることも分かってきました。鉄は酸素分子から活性酸素が発生するのを触媒しますので、がんの発生~悪性化に於いて鉄が果たす役割の重要性に関しては、中皮腫のみならず他のがん一般に於いても、現在注目されるところとなっております。

また、アスベストの吸引と煙草との因果関係も明らかとなり、この場合も煙草の煙中に含まれている鉄分がアスベスト繊維に吸着して上記結果をもたらす可能性が指摘されております。さらには鉄元素のみならず、放射性元素などを吸着する能力も見いだされているため、アスベストが環境中の微量の放射性物質を吸着~濃縮し、その結果、アスベストによる炎症部位が局所的な被爆域となっている可能性を指摘する研究者も居ります。

中皮腫の中皮というのは、肺組織を内外に覆っている胸膜を裏打ちしている細胞の事です。アスベストを吸引した場合、肺胞上皮細胞ではなくて何故胸膜中皮細胞ががん化するのか疑問に思い、そのメカニズムをちょいと調べてみましたが、明確な答えは見つかりませんでした。たぶん、なのですけど、肺胞内でアスベストを貪食したマクロファージが胸膜腔に移動し、そこで消化活動を行うためなのかな?とも想像しますが、専門の論文に当たってみないと確かなことは分かりません。

と言う事で、薬品に対しては無反応、通常の毒性試験などでも反応の無い物質が、体内に於いては将にその反応性の無さが徒(あだ)となって致死的な結果をもたらす、と言うことが、この世の中には結構生じる訳です。

で、同じように無毒無害物質である炭素繊維から出来るナノチューブの様な物体が、将にその特性のために、アスベストと同じような症状を引き起こす可能性が、ここ数年の間に指摘されて来ました。ナノチューブもアスベストと同じように非常に微細な繊維で、チューブと言う名称が表すように、ちくわの様な中空の繊維状物質で、自然界には無く、人工的に作り出される物質です。これの発明には日本の学者が大きく関わり、いずれはノーベル賞だと目されているのですが、 受賞を目前として長らく足踏みが続いている原因の一つには、上記安全性が未だ完全には担保されていない事があげられるのでは無かろうか、と考えています。

ナノチューブもアスベスト同様に微細繊維状であるに加えて、ちくわ状の中空構造をしておりますので、その中空構造内部に様々な物質を保持する事が出来ます。構造の頑健さ、化学的な無反応性、さらには電気伝導性など、ナノチューブには今後の実用化に向けて様々な応用が可能となる利点がたくさんありますので、工学系の分野から医薬品関連分野まで、非常に大きな期待が寄せられて居ります。詳しくは(独)産業技術総合研究所のHPをご覧になってください(http://www.nanocarbon.jp/sg/004.html)。 

ところが、この様なカーボンナノチューブをネズミの腹腔内に注射したり、或いは噴霧して肺に取り込ませてみたりする実験を行うと、アスベストを投与した場合と同様の慢性症状が発現する事が、ここ数年の間に分かって来ました。今回の学会では、腹腔内投与によって中皮腫が発生する事例が紹介され、ナノチューブの太さの違いによってその程度が事なるとの事でした。発生メカニズムに関しては、アスベストと同じように、炎症~鉄~活性酸素の関与が指摘されて居りました。

いずれにしましても、画期的な発見~発明がありますと必ずこの様な問題が新たに浮上しますので、科学者もナカナカ大変です。山中先生のiPS 細胞も、今後実用化に向けて、まだまだ色んな問題が出てくるかと思います。そういう意味では、坂城のセンセは結構お気楽に研究して居りますので、これはこれでよろしい事ではなかろうかと、新年早々、お屠蘇が回った頭で考えております、、、。