2015年8月アーカイブ

学会報告-10

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続きです。

ヤクルト中央研究所が発表した興味深い演題を一つご紹介致します。

102 名の妊婦さんから母乳を、その後に生まれた各々の赤ん坊からは糞便を採取し、ビフィズス菌の有無と菌の同一性を調べました。その結果、

1. 出産前の母乳からはビフィズス菌は全く検出されなかった。
2. 赤ん坊の糞便からは、出産直後の胎便から検出された例もあった。
3. 出産後、7日目以降に母乳からビフィズス菌が検出され始め、それらは赤ん坊の糞便から検出された
   ビフィズス菌と同一の系統であった。

抄録には母乳からビフィズス菌が検出された割合が書かれていないので、どのような頻度で母乳からビフィズス菌が検出されるのか、今となっては分からないのですが(たぶん、センセが聞き漏らした・・・)、この結果から、

1. 分娩時に母体のビフィズス菌が赤ん坊に伝播する。
2. 赤ん坊の腸内で、ビフィズス菌が定着~増殖する。
3. 赤ん坊が母乳を飲むとき、赤ん坊の口を介して母親の母乳に移行する。
4. 母乳に移行したビフィズス菌は、(恐らく)乳腺内に定着し、そこで増殖する。
5. 母乳を介して再びビフィズス菌が赤ん坊に移行する。

というサイクルが生じている可能性が強く示唆されます。
お母さんの母乳は「天然のビフィズス菌入りプロバイオティクス飲料」、という訳ですね!

最後の演題を紹介します。肥満~胆汁酸~腸内細菌~肝臓障害という流れで2 本の演題がありました。両者織り交ぜてご紹介します。北海道大学と大阪大学です。

1. 肥満の原因である脂肪の摂りすぎは胆汁酸の分泌過多をもたらす。
2. 胆汁酸中のコール酸が腸内細菌の働きでデオキシコール酸に変化する。
3. デオキシコール酸が肝臓の星細胞に影響を与える。
4. 肝星細胞より炎症性サイトカインが分泌され、肝ガンを含めた肝臓障害を引き起こす。

という流れです。
コール酸をデオキシコール酸に転換する細菌が、NHKの番組でも紹介されていたアリアケ菌(Clostridium ariake)です。
アリアケ菌の大部分は回腸に住み、肥満が進むとその数が急激に増加します。
デオキシコール酸が大腸ガンのプロモーター(促進因子)として働く事は以前より知られていましたが、最近では大腸ガンの他にも、上記のように肝機能障害を含めた体全体に影響を及ぼす可能性が指摘されるようになりました。
肥満がもたらす健康への影響に関しては、脂肪細胞から分泌されるレプチンとアデポネクチンの関係など、多方面からの影響が指摘されますが、今回の演題は腸内細菌を介する影響の重要性を指摘する結果となっています。

今年の腸内細菌学会では他にも紹介したい演題が多々ありましたが、取りあえずここまでと致します。

ではみなさま、無事に猛暑を乗り切って下さいませ!

学会報告-9

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本日は今年の6月に開かれた第19 回腸内細菌学会から、個人的に興味を引かれた演題を数点ご紹介致します。

科学の世界にも栄枯盛衰と言おうか流行と申しましょうか、進歩~人気の浮き沈みがありますが、ここ数年の腸内細菌学の発展には目覚ましいものがあります。その最大の原因が、培養不可能~培養困難な細菌のDNA を網羅的に調べ上げようとする試みの成功に端を発します。膨大な数の細菌のDNA情報をコンピューターを駆使して分類し、大雑把な系統学的パターンを描き出し、そこから何らかの推測を引きだそうとする試みです。そのようにして得られた推測から仮説を構築し、これを追求する事によって、従来ぼんやりとしていた腸内細菌の役割が次第に明らかとなってきました。

このような試みから日本人の腸内細菌叢の特異性が浮かび上がりつつありますので、まずはこれをご紹介致します。

九州大学大学院の先生達は、日本を含むアジア各国の子供達数百人の腸内細菌叢を調べました。その結果、以下の事が明らかとなりました。

1. 東アジアの子供達の腸内細菌にはビフィズス菌が多く、中でも日本の子供達には特に多い。 
   一方で、欧米の子供達のビフィズス菌は非常に少ない。
2. アジア地域でも、タイとインドネシアを中心とする東南アジアと、日本、中国、台湾を中心とする
   東アジアとは、腸内細菌のパターンが明白に異なる。
3. 日本の子供達のパターンはビフィズス菌が多い一方で大腸菌群やウエルシュ菌などの悪玉菌が
   少なく、同時に、菌種の多様性に乏しい。
4. どの地域でも、年齢と共にビフィズス菌の割合が低下し、大腸菌群が増加する傾向が見られた。

との事でした。
東南アジアと東アジアのパターンの違いの原因として、前者がインディカ米を、後者がジャポニカ米を主食としているので、その違いが反映されている?と推測されていました。
また、日本人の子供達は、いわゆる「きれいな菌叢」を持っているが、一方でアレルギーが極めて多い事実も指摘されていました。

個人的に興味深い点の一つは、ビフィズス菌は母乳を代表とする「乳」に強く関連する菌であると思っていましたが、牛乳を大量に消費する欧米において腸内細菌叢に占める割合がアジアよりもむしろ大幅に低い事が驚きでした。
また、日本の子供達は最もビフィズス菌の割合が大きいにも関わらず、アレルギー罹患率が高い点も大いに悩ましい点です。
日本の子供達はビフィズス菌の割合は高いけれども腸内細菌の多様性に乏しいという事実から、単に善玉菌が多ければ良いという訳ではなく、同時に種類の多様性も健康維持には必要だ、という結論が導けそうです。他国に比べて「きれいな菌叢」を持っている日本の子供達の環境は、やはり近年の「過剰衛生」の影響が強く現れているのではなかろうか?と個人的に考えました。

お次の演題も同じくゲノムデータに基づいた腸内細菌叢の国際間比較です。東京大学大学院、慶應大学、理研、麻布大学の共同研究です。
106 人の日本人成人から得られた腸内細菌のゲノムデータを、既に公表されている8 ヶ国、900 人のデータと比較しました。その結果、

1. 腸内細菌叢には高い国別特異性がある。
2. 日本人にはビフィズス菌が多い。
3. 日本人の腸内における高い酢酸の生成と、低いメタンの生成。 
4. 食事内容よりも抗生物質の使用量との関連が強く見られる。

との事でした。
先述したアジアの子供達の結果と殆ど一致していますが、日本人は大人子供を問わず、ビフィズス菌が多い事は確かなようです。また、日本人の腸内に見られる高い酢酸の生成と低いメタンの生成は、日本人の腸内環境が他国のそれと比べてより健全である事を強く示していると思います。
一方で、食事内容よりもむしろ抗生物質の影響が強く見られる事が興味深い点で、畜産業で大規模に使用される抗生物質の影響も含め、今後さらに深い研究が望まれる分野かと思われます。
 


学会報告-8

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続きです。

今回は「麹とガン予防」に関する演題が数点ありましたので、大豆麹乳酸菌発酵液との関連からも、これらをご報告したいと思います。

始めに、鳥取大学の先生達によるアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae) で発酵させた玄米の発ガン抑制のお話をします。因みに、アスペルギルス・オリゼは「麹菌」を代表する菌で、大豆麹乳酸菌発酵液で用いている菌でもあります。

C57BLマウスにガン細胞のQR-32細胞を移植すると、通常はQR-32細胞は自然退縮し、腫瘍塊を形成するには至りません。しかしながら、この時ゼラチンスポンジと共にQR-32細胞を移植すると、QR-32細胞は増殖し、最終的にマウスは死んでしまいます。
ゼラチンスポンジそのものには毒性はありませんが、ゼラチンはマウスにとって異物ですので、移植されたゼラチンスポンジを排除すべく免疫細胞が集族し、炎症を引き起こします。そうしますと、通常は死に至らないQR-32細胞の移植が、同時に進行する炎症のために致死的となってしまいます。ガンの増悪と炎症との関係を見るための動物モデルの一つです。
このモデルを用いて、マウスにアスペルギルス・オリゼで発酵させた玄米を5%と10%に餌に混ぜて与えたところ、QR-32細胞による発ガンが抑制されました(5%群の発ガン率:35%、10%群:20%、無処置対照群:70%)。
麹菌発酵玄米にはQR-32細胞を直接抑制する能力はありませんでした。しかしながら、ゼラチンスポンジ内に浸出して来る免疫細胞数が減少し、炎症性サイトカインの発現量も減少しました。
すなわち、麹菌によって発酵させた玄米には炎症を抑える効果があり、この炎症抑制作用を通じて発ガン抑制効果も期待出来る、というお話です。

次の演題は、京都大学大学院の先生達による「カツオ節菌によるガン予防」のお話です。

カツオ節菌という名前はあまり聞いたことがないかと思いますが、これも立派な「麹菌」の仲間です。味噌や醤油、酒や焼酎で用いられる麹菌の殆どはアスペルギルスの仲間に属しますが、カツオ節菌はユーロチウムという種類に属します(Eurotium harbariorum)。
カツオ節を作るときは乾燥と燻蒸(くんじょう)を繰り返しますが、その工程においてカビ付けと呼ばれる作業が行われます。この時用いられるカビが、カツオ節菌です。
カビ付けにおけるカツオ節菌の役割は、

1. タンパク分解酵素の働きによって、うまみを増す。
2. 菌糸をカツオ節内部に伸ばし、水分を吸い出す事によって、乾燥を早める。
3. 魚油による変敗を防止する。
4. 雑菌による汚染を防止する。

などが考えられます。

今回の演題では、このようなカツオ節菌がflavoglaucin とisodihydroauroglaucin と呼ばれる2種類の物質を産生し、これらがマウス皮膚2段階発ガン試験において発ガン抑制効果を示した、という事でした。
抄録には発ガン試験でどのような発ガン物質を用いたかが書かれておりませんし、メカニズムに関してもコメントが無いのでこれ以上何とも言えないのですが、個人的には、カツオ節菌が産生するこれらの抗ガン物質に関して、以下のような形で今後の研究が進んでくれたら良いのでは?と思います。
すなわち、カツオ節の生産工程では燻蒸工程が大変重要ですが、一方で、燻蒸工程ではベンゾピレン(ベンツピレン)が発生する可能性があります。ベンゾピレンは発ガン物質として大変有名な物質で、このためにEU諸国では、つい先頃まで、日本からのカツオ節の輸入が禁止されておりました。
しかしながら近年の和食ブームの影響からか、つい先頃、輸入禁止措置が解除されました。
今後はカツオ節の疑いを完全に払拭するためにも、カツオ節菌が産生する抗ガン物質とベンゾピレンの関係を是非とも研究して頂きたいと思います。

今回の学会発表では、上記のように、麹菌の発ガン抑制効果に関する演題が目立ちました。
テクノさかき研究室では麹菌を用いて液体大豆麹を作製し、これを原料の一つとして大豆麹乳酸菌発酵液を作りますが、大豆麹乳酸菌発酵液には大変強力な抗変異原活性がある事が分かっています。現在、テクノさかき研究室は、大豆麹乳酸菌発酵液が持つ強力な抗変異原活性に対して麹菌がどのように、そしてどの程度関与しているのか、その解明に向けた研究を精力的に行いつつあります。

学会報告-7

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みなさまこんにちわ!夏休みはいかがお過ごしでしょうか?
今年の夏も猛烈に暑いですね!!!日中の気温が35℃以上なんてのが当たり前になってきました。

センセのビールの消費量も急上昇で、夏休みをよいことに昼間っからプシュッ!とやってます。
夏はキンキンに冷やしたsuperdry をプシュッ!春秋はほどよく冷やした月桂冠をクイッ!そして冬は剣菱の熱燗をチビチビと・・・。


・・・・・・・ああ~しあわせ・・・・・・・しみじみ・・・・・・・




それにしても一昔二昔ぐらい前には冷夏と呼ばれる涼しい夏が周期的にあって、ニュースなどでは「海水浴客がいなくて海の家が悲鳴を上げています!」とかの報道がよくありましたが、このところは冷夏などはとんとご無沙汰で、茨城の海岸には海水浴客ならぬサメの大群が押し寄せて「海の家が悲鳴を上げています!」との事ですね。
サメの出現が温暖化によるものだとしたら今後は毎年やってくる可能性もある訳で、これは本格的な対策を講じなくてはならなくなるかも知れません。自治体におかれては、是非ともジョーズな対策をお願い致したく思います。

さて、久しぶりに「学会報告」です。まずは今年6月の第22回がん予防学会から。

近年は腸内細菌による大豆イソフラボンのイコール(イクオール、エコール)への転換が話題になっていますが、大豆イソフラボンの一種であるダイゼインをイコールに転換する細菌を腸内に持っているヒトの割合は限られています。その菌がどのように伝播するのか、159組の母子を対象とした調査が発表されていました。
方法は、大豆食品を3日間食べてもらい、尿中のイソフラボン量を測定する、というものです。腸管内にイコール産生菌がいれば、尿中にイコールが検出されます。母親の年齢の平均値は36.3歳、子供は6.2歳でした。
結果は、尿中にイコールが検出された母親のうち、その25%の子供の尿中にイコールが検出された一方で、尿中にイコールの検出が無い場合は7.9%の子供にのみイコールの検出がみられた、との事でした。統計学的にも有意な差がありました(p=0.0066)。

菌の検出は行っていませんが、状況証拠的にイコール産生菌の母子伝播を示唆する結果です。6歳児(平均)で25%の伝播率って少ない気もしますが、事によると、最近の過剰な衛生状況をも示唆する結果かな?と、個人的に感じました。また、食事内容が変化し、母親の世代では大豆製品をよく食べたけれども子供はあまり食べない、という事も考えられるのかな?とも思いました。
母親にイコール産生菌がいなくとも、およそ8%の子供が新たに産生菌を獲得するのも興味深いところです。年齢を考えると、保育園や幼稚園でのお友達との交流によって新たに獲得する可能性があるのかな?とも思います。

まさに「衛生仮説」ですね!

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