2012年5月アーカイブ

腸管免疫のお話 その三

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パイエル板というのは、分かりやすく言えば腸管のリンパ節の様なものです。しかし、普通のリンパ節とは異なる点がいくつかあります。中でも、パイエル板の表面が腸管管腔に面している点が、パイエル板の最大の特徴です。このような構造は、管腔に流れてくる細菌菌体やウイルスなどをパイエル板の中に積極的に「取り込む」ために発達してきたものだと思われます。

何故その様な事をするかと言うのを説明する前に、腸管管腔面のパイエル板表面(これを「ドーム」と呼びます)を、いくつかの図や写真で説明したいと思います。

 

パイエル板 電子顕微鏡図.gifこれはパイエル板表面の電子顕微鏡写真です。丸い月面のクレーターの様なものがいくつか見えますが、これがドームです。ドーム周辺にたくさんモコモコしたものが見えますが、これらは絨毛(じゅうもう)と呼ばれる細かいヒダヒダです。絨毯の表面を想像していただければ良いかと思います。絨毛がびっしりと腸管管腔内面を覆うことによって、腸管粘膜の表面積を増やしています。絨毛の表面は吸収上皮細胞で覆われ、広大な表面積を利用して、効率よく栄養素を吸収しています。

 

パイエル板ドーム表面-1.jpgこれはパイエル板ドーム表面を模式化した図です。表面にブラシを付けて一列に並んでいる細胞群が、吸収上皮細胞です。それらの間に色々な種類の細胞が存在しています。吸収上皮細胞に次いで数が多いのが杯(さかづき)細胞で、これは図では水色で示された「粘液」を分泌する役割の細胞です。杯細胞から分泌される粘液のために粘膜表面は常に粘液で覆われ、これが病原菌などに対するバリヤーの役目を果たす形となっています。

その他に、「抗原提示能」が強い樹状(じゅじょう)細胞や、マクロファージなども存在します。吸収上皮細胞間には特殊なタイプのリンパ球が数多く存在し、また、吸収上皮細胞下の粘膜下層には「形質細胞」などが居て、これはIgAという粘膜免疫系に特徴的なタイプの抗体を分泌します。形質細胞に関しては、次回ご説明する予定です。

ここからは、図で黄色に示されたM細胞についてお話致します。M細胞はパイエル板ドーム表面に存在する非常に特殊な細胞で、図で示したように、ドーム表面の細菌やらウイルスなどを、その触手を用いて積極的に取り込む細胞です。M細胞のすぐ下にはマクロファージや樹状細胞、リンパ球などが控えていて、M細胞の触手によって捕捉された細菌菌体などをM細胞から受け取り、マクロファージなどはこれを貪食、消化しつつ、ドーム表面からパイエル板内部に移動します。まずは、M細胞によって捕捉されつつある細菌と酵母の電子顕微鏡写真をご覧に入れましょう。

M細胞 電子顕微鏡図-2.jpg

これはパイエル板ドーム表面の電子顕微鏡写真です。矢印で示したところがM細胞の表面ですが、なにやらモコモコとしたものが存在していることが分かるかと思います。これらモコモコとしたものが、M細胞の「触手」です。上の写真では、丁度、酵母や細菌の桿菌(棒状の細菌)や球菌(球形の細菌)がM細胞の触手に捕まっているところが上手く撮影されています。当然、センセ自らが撮影したものです。

このようにしてM細胞は細菌などを捕捉し、それを間近に控えているマクロファージや樹状細胞に引き渡すのですが、何故その様な事をするのでしょうか?

マクロファージや樹状細胞は、これらの細菌などを貪食、消化し、その断片をパイエル板中心部に夥しく存在しているリンパ球に引き渡します。これは丁度「お尋ね者の人相書き」をリンパ球に触れ回る行為だと考えて良いかと思います。その後リンパ球はパイエル板を出て腸間膜リンパ節などに移動し、そこで増殖します。すなわち、お尋ね者の人相を知っている仲間を増やす訳ですね!

さらにそこからリンパの流れに乗って、全身を経巡ります。最終的に体各部の粘膜にたどり着き、そこでIgA 抗体を分泌する「形質細胞」などに変化します。

ここまでの流れをマンガにして見ましたので、まずはごらんになってください。

 

リンパ球の全身回帰.gif黄色くなっているのが「お尋ね者の人相書き」を教えられて「活性化」したリンパ球です。すなわち、食事その他、口や鼻から入ってくる病原菌やウイルスに対して腸管免疫系はM 細胞を窓口の一つとしていち早く情報を入手し、これに対して備えるために「先遣隊」を体全身に巡らす訳です!すごいですね、腸管免疫!

連休は本日で終了。従いまして、腸管免疫シリーズの続きは次回に示したいと思います。次の祝日はいつですかね?暦を見ますと7月まで当分ありませぬ、、、。中途半端ですので、それでは何とかがんばって、途中に続編を書いてみる事としましょうかね?でも、お約束ではありませぬので、さてどうなりますことやら、、、。

 

腸管免疫のお話 その二

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 続きです。

前回は、免疫を担う代表的な細胞たちをいくつかご紹介して参りました。今回はまず、体の中の免疫組織全体について説明し、その後、腸管免疫組織に的を絞ってお話ししたいと思います。

腸管免疫が学問的に注目を浴びる前は、腸管は単なる消化吸収の場であるとしか認識されていませんでした。ところが20数年ぐらい前から腸管に存在する免疫細胞の数は体全体の50~70% にも及ぶことが分かりだして以来、腸管はがぜん多くの免疫学者の注目を浴びることとなりました。

全身免疫系のコピー.gif左の図は、腸管免疫に注目が集まる以前に考えられていた「免疫臓器」です。

黄色いぽつぽつしたものが「リンパ節」、真ん中の臓器は肝臓と脾臓です。肝臓や脾臓にも数多くの免疫細胞が存在しています。

 

粘膜免疫系のコピー.gif 

 

 

 

 

右の図は、腸管免疫系の組織です。腸管以外にも、鼻腔~咽喉~肺などが含まれている事が分かります。すなわち、体の外部と内部を分け隔てる「粘膜」系組織の全てが含まれている事が分かります。従いまして、現在ではこれらを総合して「粘膜免疫」と呼ぶこともあります。 

 

 

下の図は、胃と腸を表した図です。図の中で、ピンク色で描いた組織が小腸に沿っていくつか並んでいるのが分かります。これは「パイエル板」と呼ばれる組織で、腸管免疫にとって非常に重要な役割を果たしている組織です。

パイエル板のコピー.gifパイエル板の中には、リンパ球などの免疫細胞が非常に多く存在しておりまして、腸管管腔内を流れてくる細菌菌体などの「抗原」を認識し、病原菌などに対処すべく、常時備えを構えて居ります。

 

 

 

 

 

 

下の図は、そんなパイエル板を輪切りにした図です。

真ん中にたくさんのリンパ球が存在して居るところを表現して見ました。腸管管腔に面しているところに黄色い細胞が見えますが、これはM 細胞と呼ばれる細胞で、腸管免疫において大変重要な役割を果たします。M 細胞に関しましては、後ほどご説明致します。

パイエル板輪切りのコピー.gif

 

 

 

 

 

 

 

下の図は、腸管管腔を輪切りにし、腸管の蠕動運動(ぜんどううんどう)によって、管腔内を細菌が流れていく様子を表したものです。 

腸管縦断面 本番.gif なんかはじめの「小学生にも分かりやすい」という約束をすっかり忘れてだんだん難しくなって来ましたが、そんなもんです。次はパイエル板の粘膜上で行われる免疫細胞の活動についてお話して行きたいと思います。

腸管免疫のお話 その一

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みなさんこんにちは!ご機嫌いかがですか?大型連休をとられた方もたくさんいらっしゃるかと思いますが、風薫る五月の連休、大いに満喫しておりますでしょうか?

私は研究室に缶詰状態で、普段出来ない論文書きのお仕事を一生懸命やっています。でも、いささかと言おうかめちゃらくちゃらと言いましょうか、疲れましたので、気分直しにブログの更新を致します。今回はこれまでと趣を異に致しまして、免疫学、特にバイオジェニックス乳酸菌をより深く知っていただくための必須科目であります腸管免疫学について講義したいと思います。

いきなり「腸管免疫学」とか言うと、これはいささか手強そうですね!

でもご安心ください。中山センセお得意の「マンガ」で逐一解説して行きますので、小学生でも分かるようになっております。本当に小学生でも分かるかどうかは小学生に聞かないと分かりませんが、分かるかも知れない、ぐらいの意味でございます。小学生で分かっても大学生では分からない、などと言うこともこの世には良くあることですので、小学生にでも分かる様に書いたからと言ってそれが何だ!と言うご意見もごもっともかと存じますが、相変わらずどうでも良いことをくどくどしゃべりますね、このオトコは!

さて、免疫と言う言葉について、まずはお話を致します。

基本的には、「病原菌やウイルスなどの外敵をやっつける仕組み」と定義するのが適切かと思います。本来的な意味は少し異なるのですけど、それはこの際無視しちゃいます。あんまり詳しく話し出すと、小学生はすぐ退屈しはじめて隣の女の子の髪の毛を引っ張ったりして泣かしたりするでしょうから、出来る限り簡単明瞭にお話して行きます。

本来的には、「病原菌やウイルスなどの外敵をやっつける仕組み」が免疫ですけど、そのうちに色々免疫学も発展して参りまして、外敵だけではなく、ガンなどの「内敵」に対しても常日頃から働いてくれている事が分かって参りました。「外敵」に対しましては既に「抗生物質」などの優れた医薬品が発明されておりますので、我々現代人は以前に比べて外敵に対してはそれほど注意を払うことも無くなりましたが、なにぶん現代日本人の少なくとも1/3はこれで死ぬこととなろうとも言われているガンに関して免疫が働くともなれば、やっぱり免疫の働きを理解しておくのは大変重要かと思います。

それではまず、いくつかの免疫担当の細胞クン達にご登場願います。まず始めに「マクロファージ」から。

マクロファージ 本番.gifこの絵はマクロファージが「グラム陰性菌」や「グラム陽性菌」を貪食(どんしょく=がつがつ食べること)しているところです。赤いのがグラム陰性菌、青いのがグラム陽性菌です。

グラム陰性菌やグラム陽性菌は大体1g なんぼで売られていますので、グラム陰性、陽性菌と言われています。というのは、もちろん嘘です。

「グラム染色」で染まるのがグラム陽性菌、染まらないのがグラム陰性菌です。

では「グラムって何?」と言う質問が小学生から挙がりました。ハイ、それはヒトの名です。おしまい。詳しくお話しするときりがないので、どちらも「細菌です!」でおしまいと致します。

さて、マクロファージの役割の一つは、この絵のように、「異物」をがつがつ食べることです。本来的には「異物」とは「外敵」のことですが、ある場合にはガン細胞も異物として認識されますので、マクロファージもガン細胞をこの絵の様に食べる場合もある様です。マクロファージは貪食機能だけでなく様々な役割を果たしており、基本的には免疫機能の中心となる細胞です。

さて、次に登場致しますのはリンパ球です。その中でもBリンパ球と呼ばれるリンパ球に登場して貰いました。リンパ球 本番.gif

 この絵では、Bリンパ球クンがなにやらY字型のものを体から発射していますね!これは「抗体」と言うもので、いわば時代劇の「さすまた」の役割を致します。「さすまた」を知らない小学生は、お父さんやお母さんに聞いてください。さすまたを知らないお父さんやお母さんは、ご自分のお子様に聞いてみてください。

さて、Bリンパ球クンは、このさすまたで病原菌をやっつけます。このBリンパ球の抗体=さすまたは、病原菌に対して「特異的」で、ちょいとでも人相の異なる病原菌に対しては、せっかくのさすまたも役には立ちませぬ。

でもそれで良いのです。誰彼にもさすまた攻撃を行いますと、善男善女の長屋の皆さんにもあらぬ攻撃が仕掛けられてしまいますので、やっぱり「正しい人相書き」の大悪人に対してのみ、さすまた攻撃となる訳でございます。さすがですね、免疫!

さて、さらなる登場人物、ではなくて登場免疫細胞は、NK細胞です。 NK細胞とガン細胞 本番.gifNK細胞のNKはNAKAYAMAの略では有りませぬ。では無くて、Natural Killer 細胞の頭文字です。先ほどのBリンパ球が「正しい人相書き」の悪人に対してのみ攻撃を仕掛けるのに対して、NK細胞クンは、正しかろうが正しくなかろうが、「他人」に対して攻撃を仕掛けます。その意味で、Natural と言う名前が付けられています。

この絵は、NK細胞がガン細胞群を攻撃しているところをマンガにしたものです。

NK細胞は自分とは異なる者をお構いなしに攻撃する傾向が有りますので、元々は身内であったガン細胞も、その後に身内である為の「証明書」を失いますと、このようにNK細胞の攻撃を受けてしまいます。この絵では、ガン細胞群に対してNK細胞が「パーフォリン」という物質を出してガン細胞に穴を開け、その後に「グランザイム」という物質をガン細胞内に注入してガン細胞を攻撃する様を描いています。グランザイム攻撃を受けたガン細胞は、「アポトーシス」と呼ばれる「自死」行動によって自らの命を絶ってしまいます。その結果、元の出自たる身の回りの人々にご迷惑を掛けずに、自らの存在を消し去るのでございます、、、。

次に、好中球(こうちゅうきゅう)や好塩基球(こうえんききゅう)、好酸球(こうさんきゅう)のお話を致します。これら「三兄弟」は、マクロファージやリンパ球、NK細胞が出動する前に真っ先に外敵に向かって突進する連中です。好中球は「膿み」の元で、細菌が侵入して来たときに真っ先に爆弾を抱いて立ち向かい、特攻隊の役割を果たします。外敵を爆弾でやっつけるのと同時に、自らも爆死してしまいます。その名残が、「膿み」という訳です。好塩基球は、鼻粘膜などに定着して「肥満細胞」となり、花粉などに反応して「ヒスタミン」などの化学物質を放出する結果、「花粉症」の原因ともなる細胞です。ならば悪い細胞かと言うととんでもなく、そもそも本来的には外敵である花粉に対して一生懸命働いてくれている細胞ですので、皆さんどうぞか、か、かわいがってやってくださ~い。ハ~~~ックショ~~~ン!!!

寄生虫 本番.gif この絵は「好酸球」が寄生虫をやっつけているところの絵です。

好酸球は専ら寄生虫退治を行う細胞で、この絵の様に、細胞内に保持している物質を放出して、回虫やらその他、寄生虫退治に活躍します。

以上述べました好中球、好塩基球、好酸球の三兄弟は、先に述べましたように、外敵侵入に対して真っ先に駆けつけて仕事をしてくれる連中です。それ以外にも、血液の中には補体(ほたい)とか、涙や母乳中にはリゾチウムなど、細胞では無いけれど、体の中に進入した外敵を排除する為の仕組みが数多くあります。普段我々はこれらに気づかずに毎日過ごしておりますが、これらの「裏方」さんのヒト知れない日々の仕事があってこそ、我々は平和な毎日を過ごす事が出来るのであると言う事を今回のお話から知っていただければ、センセも大変嬉しく思います。人間の社会と一緒ですね!

それでは本日はこれまで!明日からは「腸管」のお話に続きます。

 

 

 

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