ちょっと研究内容: 2014年5月アーカイブ

お焦げとガンについて-22

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引用文献など、文中に書き込むと読みづらくなるので、最後にまとめました。いくつか「漏れ」もあるかと思いますが、何卒ご容赦下さい。画像の転載に関しましては、お詫び方々お礼を申し上げます。

お焦げとガンについて-1~3
1. ワインバーグ 「がんの生物学」 南江堂
2. Garrow JS、James WPT、Ralph A 「ヒューマン・ニュートリション」 医歯薬出版(株)

お焦げとガンについて-4
3. Schwab CE, et al. Search for compounds that inhibit the genotoxic and carcinogenic effects of Heterocyclic aromatic amines. Critic Rev Toxicol, 30, 1-69, 2000
4. Ames BN and Maron DM. Revised methods for the Salmonella mutagenicity test. Mutation Res, 113, 173-215, 1983
5. Stavric B. Biological significance of trace levels of mutagenic heterocyclic aromatic amines in human diet: a critical review. Fd Chem Toxic, 32, 977-994, 1994 

お焦げとガンについて-5~6
6. Wakabayashi K and Sugimura T. Heterocyclic amines formed in the diet: Carcinogenicity and its modulation by dietary factors. J Nutr Biochem. 9, 604-612, 1998
7. Pais P, et al. Formation of mutagenic/carcinogenic heterocyclic amines in dry-heated model systems, meats, and meat drippings, J Agric Food Chem, 47, 1098-1108, 1999
8. Augustsson K, et al. A population-based dietary inventory of cooked meat and assessment of the daily intake of food mutagens, Food Additives and Contamitants, 16, 215-225, 1999
9. Ohgaki H, et al. Carcinogenicities of heterocyclic amines in cooked food, Mutation Res, 259, 399-410, 1991
10. 長尾美奈子 「食品中のHCA はヒトの発がん物質か?」 Foods Food Ingredients J Jpn, 194, 25-32, 2001

お焦げとガンについて-7
11. Cheung C, et al. Rapid induction of colon carcinogenesis in CYP1A-humanized mice by 2-amino-1-methyl-6-phenylimidazo[4,5-b]pyridine and dextran sodium sulfate, Carcinogenesis, 32, 233-239, 2010
12. Takayama S, et al. Chemical carcinogenesis studies in nonhuman primates, Proc Jpn Acad Ser, B 84, 176-188, 2008

お焦げとガンについて-8
13. Cancer and diet from NIH.png, GNU free documentation license ver 1.2
14. IARC; International Agency for Research on Cancer, database
15. USDA; World markets and trade in selected countries, database
16. FAOSTAT; Per capita meat consumption of 177 countries in 2007

お焦げとガンについて-10
17. 廣畑富雄; 
18. がん研究振興財団 「がんの統計」

お焦げとガンについて-11
19. FAOSTAT; Per capita meat consumption of 177 countries in 2007
20. IARC; International Agency for Research on Cancer, database

お焦げとガンについて-12
21. FAOSTAT; Per capita meat consumption of 177 countries in 2007
22. IARC; International Agency for Research on Cancer, database
23. 中村宗一郎他 「日本と韓国の食の現状と課題」 信州大学農学部紀要 43, 9-15, 2007
24. 堤伸子 「わが国の食料消費行動の変化と特徴-日韓の比較を中心として-」 鳥取大学教育学部

お焦げとガンについて-14
25. FAOSTAT; Daily fat intake per capita in 2010
26. 五訂日本食品成分表 医歯薬出版(株)

お焦げとガンについて-15
27. FAOSTAT; Dietary energy concumption in 2010
28. Ganmaa D and Sato A. Mortality from ischemic heart disease in relation to world dietary practices; http://www.eps1.comlink.ne.jp/~mayus/lifestyle2/milkcalcium2-4.html
29. 都道府県別統計とランキングで見る県民性; http://todo-ran.com/t/kiji/13657
30. CDC; Colorectal cancer incidence rates by states, 2010
31. CDC; Principles of epidemiology in public health practice, 3rd edition.

お焦げとガンについて-16
32. PubMed;  http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed

お焦げとガンについて-17
33. 食品安全委員会ファクトシート 「食品に含まれる多環芳香族炭化水素(PAH)概要」 平成24年

お焦げとガンについて-19
34. 「印刷事業場で発生した胆管がんの業務上外に関する検討会」報告書; 平成25年
35. 新エネルギー・産業技術総合開発機構 「化学物質の初期リスク評価書」No.15、ジクロロメタン、2005年
36. 厚生労働省・化学物質のリスク評価検討会 「リスク評価書」No.64、1,2-ジクロロプロパン、2013年
37. IARC; International Agency for Research on Cancer, database


 




 







お焦げとガンについて-21

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まとめ-2

さらに、まとめます。
ここでは具体的に、「じゃ、どうすりゃエエネン?」と言うフィンランドの方のご質問にお答えしたいと思います。「こうしなさい!」とは言いません。ホントのところは誰にも分からないからです。飽くまで、「これまでの議論を積み重ねた結果、必然的に、こうすれば良いはずだ!」ぐらいの気持ちです。
「ガンにならないための12 ヶ条」とか、既に色々な事が述べられています。同じ事をここで買いても仕方が無いので、飽くまで「お焦げ」に特化して、少し毛色を変えてお話してみたいと思います。

1. 調理法を変えれば良い
これまでの議論から、直火で調理した肉が怪しい、と結論づけられました。従いまして、まずは直火調理法を止めれば良いかと思われます。具体的には、焼き肉、グリル、バーベキューの類の調理法から、煮物、鍋物、シチュー、しゃぶしゃぶ等の方法に変えれば良いのでは無いのでしょうか?

センセは沖縄県石垣島の出身ですが、沖縄の伝統的豚肉料理も良いかと思います。豚のソーキ肉とか三枚肉とかを昆布や大根と一緒にコトコト長時間煮込んだ料理があります。ソーキ汁とかの名称で、町の食堂でも売られてます。同じ様な料理法でヤギ汁とかもありまして、好きな人は好きですけど、センセはちょいと・・・。
豚の三枚肉で作るラフテーなんか、最高ですね!!!鹿児島の豚の角煮も同じです。

この様な沖縄の伝統料理が食べられていた頃は、沖縄は日本で一番の長寿県だったのですけどね、、、今はね、、、みんなKFC とかマックとか食べてるしね、、、腹は出てるし、、、、ま、いいけどね、、、。

洋風ですと、シチューが一番です。
これから夏に向けての料理としては、豚肉の冷しゃぶなどはお勧めでしょう。

2. ハレの日を設ける
「なんのこっちゃ?」と思われるかと思いますが、民俗学で言うところの「ハレの日とケの日」の事です。ハレの日とは「特別な日」の事で、「ケの日」とは仕事をする日常の日々の事です。

基本的には先に述べたように調理法を変えれば良いのですが、それでも「どうしてもステーキが食べたい!」と言う時もあるでしょうね!そう言うときは、自分のご褒美の日を作れば良いのです。それが「ハレの日」と言う訳です。
ハレの日=特別な日ですから、そんなにしょっちゅうステーキだの焼き肉だのを食べる訳にはいきません。すんごく大事な商談がまとまった時とか、大学入試に受かった時とか、或いは盆暮れ正月でも、何でも良いのですけど、特別な日にのみ「直火肉」を食べるとか、メリハリをつければリスクも大いに低下するでしょうし、何と言ってもその特別の日のステーキや焼き肉は、「より美味しく、より貴重に」感じられることかと思います。

3. 肉の種類を変える
これまでの議論から、センセは個人的には「牛肉」の直火料理が一番怪しいと考えています。
「お焦げとガンについて-10」のグラフからも明らかな様に、日本のバブルが弾けた後は牛肉の消費量が低迷しましたが、軌を一にして、大腸ガン罹患率の上昇の程度が大いに低下しております。
「お焦げとガンについて-15」では、近年のアメリカ人の大腸ガン罹患率の低下と牛肉消費量の低下との間に相関が見られる事を示しました。

牛肉が怪しい事の原因としてヘム鉄と脂肪について考察しましたが、個人的には、ヘム鉄や牛脂以上に、牛肉の加熱調理で生じるHCA の種類が主犯であると考えています。

「お焦げとガンについて-5」で述べました様に、肉の種類によって生成するHCA の種類が異なる可能性があります。エームズテストで調べる限りにおいては、鶏肉などに多く生成するPhIP の変異原性は低い一方で、生成量としては非常に少ないのですけど、牛肉などでしばしば生成するIQ 、MeIQ 、MeIQx と言った種類のHCA の変異原性は極めて高いです。「お焦げとガンについて-14」で議論した様に、ヘム鉄や油は副犯としては有望かも知れませんが、主犯である証拠は低いと思います。そうなりますと、やはりHCA が主犯である可能性が高いです。

であるのならば、なるべく牛肉を控え、代わりに鶏肉や豚肉を用いる、と言う選択肢は有望です。また、肉の代わりにお魚、特にお刺身や煮魚の頻度を高める、と言うのはbetter です。さらには、冷や奴や湯豆腐など、植物性タンパクの代替量を高めるのも大変良い方法です。
全体のバランスが大事です。
この様な多くの食材に恵まれた日本に生まれて、ホント良かったですね!

「肉は親の仇!」の様な見方はいけません!
動物肉には動物肉からしか摂れない栄養分がありますし、特に働き盛りの人々には瞬発力~持久力が必要です。精進料理だけでは世界に勝つことは出来ませぬ!!!

4. 何と言っても量を控える
いくら調理法を変え、豚や鶏や魚や大豆を食べるとしても、毎日たくさんたらふく食べると言うのも問題です。ほどほど、適量、が大事です。
どこぞの業界の方々の様に、毎日が「打ち上げ」感覚で銀座赤坂六本木に繰り出して夜な夜な焼き肉に舌鼓を打った後はデスコやらクラブやらに繰り出して強い酒を飲みながらタバコをプカプカふかしている様な毎日を過ごしていると・・・・・うらやましいです・・・・・。 じゃ、ないです!!!

ましてや「お茶碗一杯のお焦げ」に相当する量のこんがり焼けた牛肉を「毎日」食べる様な Horse and Deer な真似だけは、絶対にしないで下さい!!!


おわりに

さて、大変長いシリーズとなってしまいました。センセ自身も色々勉強になりました。今更ながらではありますが、バランス、と言う概念が大変大事であると言う結論に達しました。
繰り返しになって恐縮なのですが、今後は益々定年後の人生の過ごし方が重要になって来ます。以前に「疲労と休養シリーズ」でも議論しましたが、定年後の長い人生の時間の過ごし方によって、生涯のトータルの生産の量と質が大いに異なって来ると思います。

事によると、「これまでの人生は世を忍ぶ仮の姿。これからの第二の人生こそが、俺にとっては第一の人生だ!」と言う つわもの も居られるかも知れません。

そう考えますと、第二の人生を有意義におくるためには健康が一番であり、そのためには食生活を含めた日々の過ごし方が誠に大事である事に異論は無いかと思われます。
その様な意味からも、今回のシリーズが皆様のお役にたつ事が仮に出来たのであれば、センセも本当に幸せに感じます。

それでは皆様、連休の最後の一日を、有意義にお過ごしください。 مع السلامة !!!

お焦げとガンについて-20

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まとめ-1

まとめます。

これまで述べてきた様な事を耳にすると、直ぐに「やっぱしお焦げはアブナイ!」とか、「肉はヤバイ!」とか言って、肉の類を全く食べなくなるヒトが出て来るのが世の常です。なんでこの様な早合点が生じるのかと言うと、それはやはりガンと言う病気の性質による誤解から来るものだと思われます。

これまで何度も述べてきたように、一部を除き、多くの一般的なガンは、ある意味「老人病」と言っても良い様な、高齢に達した後に発症する病気です。インフルエンザや食中毒とは異なり、発症原因も不透明なところが多く、「感染」後に程なく発症する様なタイプの病ではありません。その意味で、ガンは、糖尿病や血管病などの、いわゆる生活習慣病に良く似たところがあります。或いは、飽くまで一般的なガンに限りますが、「ガンは生活習慣病の一種」とまで言い切っても、大きな間違いでは無いとも思います。その様な生活習慣病に近い性質を持つガンの原因物質、特に食物由来のそれを、インフルエンザウイルスや食中毒菌の様なものと同列に扱う必要はありません。また同時に、インフルエンザや食中毒はのど元過ぎればやり過ごす事が出来ますが、生活習慣病は幾十年もの毎日の積み重ねの結果です。ガンも全く同じですので、(日々の積み重ね× 幾十年=結果)と言う数式を頭に入れておくと良いかも知れません。

センセがヒトにガンを説明する時にしばしば用いる「比喩」があります。それを以下に述べて見ようと思います。



一本の道があります。
こちら側にあなたの家があります。
向こう側に一件のお店があります。

あなたは生きるために向こう側のお店に食べ物を買いに行かなくてはなりません。そのためには、道路を渡らなくてはなりません。道路には、お店に食料品を運ぶために、毎日車が走っています。あなたは道路を渡る前に、右と左をよく見て車が来ないことを確認して、道を渡ります。

ガンに罹ると言うのは、この時に車に轢かれるようなものだ、と、考えています。

向こう側のお店に買い物に行かなくては生活出来ないので、道を渡らないと言う選択肢はありません。従いまして、車に轢かれる確率は、生涯にわたってゼロになる事はありません。
車の数が多ければ、お店の品数も増え、贅沢が出来るでしょうが、車に轢かれる確率は高くなります。
車の数を減らせば、車に轢かれる確率は減りますが、お店の品数は減り、最悪の場合は栄養失調で死んでしまいます。
若いうちは車の数が多くても、敏捷なので、スイスイとすり抜けて、お店まで到達する事が出来るでしょう。けれども年を取るにつれて敏捷な動きが出来なくなり、若いうちだったら平気だった数の車でも、轢かれてしまう可能性が高くなるでしょう。
さらには車の中にはしばしば暴走車も走っていますので、この場合は例え若くて敏捷であっても、そのうちに轢かれてしまう可能性が高くなる事でしょう。



それではどのようにすれば、生活の質を落とす事なく、車に轢かれる確率を減らす事が出来るでしょうか?

まず最初にやるべき事は、出来うる限り、暴走車を閉め出す事です(発ガン物質の排除)。
次に、お店の在庫を、多すぎず、少なすぎず、適正な量に維持する事です(適正な食事量と適正な栄養の維持)。
次に体を鍛え、敏捷性を維持する事です(免疫システムの維持~強化)。

こうすればガンをゼロにする事が出来るでしょうか?
残念ながら、出来ません。道を渡ってお店に買い物に行く限り(すなわち生命活動をし続ける限り)、車に轢かれる確率はゼロとはなりません。
しかしながら、上で述べた三点を意識的に行い続ければ、そうでないヒトと比べて、車に轢かれる確率が減る可能性は大いにあります。

この様に述べますと、必ず次の様なお話が返ってきます。それは、「私が知ってる誰それさんは、常日頃から菜食主義者の様な生活を送っていて、ご近所の評判も良く、皆から慕われていたヒトだったのに、50 を過ぎて程なくしてガンで死んでしまった」とか、「私が知ってる誰それさんは、日頃からタバコは吸うは大酒は飲むは肉はたらふく食うは女房は泣かすはの業深い男であり、近所の鼻つまみ者であったが、90 過ぎまで長寿を全うした」だのと言う類のお話です。

これまで何度も指摘してきた事ですが、例えば大腸ガンを例にとった場合、1000 人の日本人が70~80歳まで生き抜いて始めて5人程度のヒトが罹患する様な、そんな病気です。従いまして、女房を泣かす様なごうつくジジイでも、だから必ず天罰が下る!と言う訳ではありません。残念ながら wwww。
けれども、これまで見てきましたように、人口数百万~数千万と言う規模で比較検討しますと、明らかに差が出てきます。そして、これまでは大腸ガンのみに焦点を絞って見てきたわけですが、これに胃ガン、肺がん、乳ガン、前立腺ガン、膵臓ガンその他その他のガンの罹患率が加算される訳です。そうなりますと、足下~近い将来、日本人の二~三人に一人がガンで死ぬ計算となってしまいます。
これらのガンの原因の全てが必ずしも解明されている訳ではありませんが、この様に考えて、「私が知っている誰それさん」を何百万~何千万も集めて見ますと、やはりごうつくジジイに天罰が下る確率が高くなってきます。

厳しい事を申し上げる様ですが、そもそも生物学的に見た場合、人類は50 歳程度まで生きれば、「ホモサピエンス」として種の維持を図る意味においては、十分である様に作られております。50 歳以降の人生は、いわば神様としてみれば、「そんなつもりで作ったのでは無かったのだが、、、可笑しいな?」ぐらいのものなのです。でも、神ならぬ身の強欲な我々としては、「そんなことなど知った事では無いワ!」と嘯く(うそぶく)のがせいぜいです。

日本を含む世界の先進諸国が達成してきた文明は、80~90 歳に達する人類の長寿を可能としました。その一方で、長寿に伴う疾病であるガンの根本的解決法は未だ成功には程遠いものがあります。日本の場合、仮に65 歳で定年を迎えたとしても、残り20 年程度も人生が続く訳です。しかもこれは平均値です!今後はさらに高齢化が加速し、90~100 歳程度まで生きる人々の数が増加する事が予測されています。

引退後の長い人生、ナントかガンに罹らずに全うしたい!と願うのは全く自然な事であり、若いうちから、或いはせめて働き盛りの壮年期に達したら、自らの引退後の人生とガンとの関係について考察を巡らし、色々対策を講じておくべきかと思います。その中にはガン保険に入ると言う選択肢もあるでしょうが、もっと大事な事は、予防以上に優れた治療法は無い、と言う認識を強く持つ事です。
ガン治療が、少なくとも現段階においては完全とは程遠いものであると言う現実がある一方で、今後益々国家財政に占める医療費の割合が増加し、その結果、国家破綻すら夢物語では無い現状を踏まえると、将に、ガン予防こそは国家的急務である、とまで断言しても差し支えないと考えます。

国が出来る事と出来ない事があると言う事実を踏まえると、自分の身は自分で守ると言う意識こそが重要です。

次回はそれでは具体的にどうすれば良いのか、お話致します。


お焦げとガンについて-19

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動物は、ヒトの完全な代用となる事は出来ない-2

動物実験の結果を鵜呑みにしているととんでもない結果が生じる事の好例を、もう一つ挙げたいと思います。

数年前、大阪の中小の印刷工場で働いていた作業員の間で多くの胆管ガン患者が発生し、多数の死者が出たのをご記憶の方も多いかと思います。胆管ガンというのは文字通り胆管に出来るガンで、この事件以前には殆ど耳にする機会も無かった様な稀なガンです。丁度、アスベスト被害で中皮腫と言うガンが有名になった件を彷彿とさせますね。

この胆管ガンの原因となったと目されている物質が、印刷工場のローラー洗浄に使われていた有機溶媒のジクロロプロパン(正確には1,2-ジクロロプロパン)とジクロロメタンです。

IARC と言うガンの国際機関の基準によると、それでも一応ジクロロメタンの方はグループ2B、即ち「ヒトに対して発ガン性があるかも?」に分類されますが、ジクロロプロパンに至ってはグループ3、即ち「ヒトに対して発ガン性がある物質には分類されないよ」と言う判定です(1999年)。IARC 以外にも色々な機関や学会の判定がありますが、明確に「発ガン物質である!」と断定したものは皆無です。その理由は、動物実験での結果が実に曖昧模糊としているのに加え、疫学的にも因果関係が不透明であるためです。

因みにベンゾピレンはIARC 基準ではグループ1 、即ち「ヒトに対して発ガン性がある!」と断定されていますし、HCA の一つであるIQ はグループ2A 、即ち「ヒトに対して、恐らく、発ガン性がある」に分類されています。

ジクロロプロパンやジクロロメタンの発ガンメカニズムですが、これらもHCA やベンゾピレンと同じく、ヒトの代謝酵素によって変化を受け、発ガン物質となります。HCA の時に説明したCYP 酵素も関与しますが、その他にグルタチオントランスフェラーゼ(GST)酵素が関与し、GST のアイソザイムであるGSTT-1 が胆管上皮細胞に分布しますので、これに反応して発ガン性を有する様になる、と思われます。最終的にはHCA と同じようにDNA の付加体を形成し、変異原物質として働くと考えられます。

動物実験では動物種の違いによる差が明瞭で、実験方法によって異なるのですが、例えばジクロロメタンの場合では一般的にマウスの方がラットより感受性が高い一方で、ハムスターは殆ど反応しません

さて、この様に殆ど警戒されていなかったジクロロプロパンとジクロロメタンですが、現実には上記の様な悲惨な結果を引き起こしてしまいました。もちろん印刷工場の換気の悪さなど管理に落ち度があったのは確かですが、それでも、最大の原因の一つが、両物質の発ガン性に対する認識の甘さにあった事は明らかだと思います。そしてその認識の甘さの原因がIARC 等の国際基準での両物質の位置づけにあり、そしてその位置づけの最大の原因が、両物質は動物実験で明瞭な結果を示さない、と言う事実にある事がおわかりになったかと思います。
より詳しく見ていけば、特にジクロロメタンの場合には実験方法によってはより低濃度で発ガン性を示す様になるのですが、その他の実験を加味して総合的に判断されますので、2B の判定となっているのかも知れません。この点、詳しい事は分かりません。

さて、ジクロロプロパンとジクロロメタンの吸入暴露によって引き起こされた胆管ガン事件に関しては、もう一つ言及しておかなくてはならない大事な点があります。それは、亡くなられた患者さんの多くがタバコを吸っていた、と言う事実です(第20回 日本がん予防学会 2013年)。
死亡した患者さんのうち正確に何人が喫煙者であったか、忘れてしまいましたが、相当数の方がそうでした。
ここから導く事の出来る大事な点は、タバコを含む、環境からの他の因子が、主要因子の発ガン性を相加的~相乗的に増幅している可能性が大いにある、と言う事です。「複合汚染」と言う言葉が適切かも知れません。仮にこれが正しいとした場合、タバコはタバコ、お酒はお酒、焼き肉は焼き肉、と言う風に個別に考えていると、知らないうちに取り返しの付かない事になるかも知れません。例えば既に大きな因子に暴露されているヒトにとっては、大陸から渡ってきたPM2.5 が「馬の背中に乗せた荷物の最後の一本のわらしべ」となる可能性すら全く無いとは言えません。
「馬の背の最後の一本のわらしべ」と言う言葉がどの様な意味であるのか、どうぞ個人個人で考えて下さい。この考え方は、発ガンを語る上でとても重要な概念です。

よくお医者さんなどが「この程度の量でしたら問題無いでしょう。」等と言っているのをTV 番組などで見かけたりしますが、「この程度の量」がそれぞれのシロモノに乗じられると、いつのまにか全体の量が閾値(いきち)を超えていた、などと言うことも考えられます。閾値と言うのは、「これ以上は危ないよ!」と言う地点です。

いずれにしましても、動物を用いた実験結果を鵜呑みにし、そのまま無批判にヒトに当てはめる事だけは止めていただきたいと、心より思います。


お焦げとガンについて-18

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そろそろまとめに入りたいと思います。
まず、そもそも何で「お焦げを毎日茶碗一杯くらいに食べてもガンにはならない」などと脳天気なことをTV で言う連中が居るのか、ネットでちょいと調べてみましたら、原因が分かりました。どうやらそれは、昭和56 年に国立衛生試験場の先生が魚粉を焼いて焦げにしたものを最大20% に餌に混ぜ、ハムスターに2 年間与え続けた実験から来ている様でした。まず、この実験について考えて見ます。

動物は、ヒトの完全な代用となる事は出来ない-1

こう書きますと、「なら、何で動物実験とかするの?」とか聞いてくるかも知れません。さらには「かわいそうだから、やめれば?」とまで言うヒトもいるかも知れません。
個々の動物実験には個々の目的があり、その目的に沿って実験をデザインします。まず初めに行う事は、どの種類の動物~或いはこの段階では「生物」と言う方が良いかも~を用いるかを決定する事です。

例えば「遺伝」の実験などで世代の推移による形質変化などを調べる場合には、しばしばショウジョウバエなどが用いられます。その理由は、短期間に非常に多くの世代交代を観察する事が出来るからです。けれども実験者は、そのようなショウジョウバエを用いた実験結果をそのままヒトに当てはめる様な事はしません。ショウジョウバエと言う生物が持つ限界を十分に認識した上で、実験結果から得られた意義を語るはずです。

医学系の実験でも全く同じです。遺伝子の実体が明らかとなった頃の実験は、その多くが大腸菌や酵母を用いて行われてきました。哺乳類細胞を用いるよりも実験が簡単ですし、単細胞生物を用いて基礎的な知識を積み重ねた後、哺乳類細胞に移行すれば良いからです。哺乳類細胞で多くの知見が重なれば、次にネズミを用いて実験を行い、さらに次には・・・・と言うカンジで進んでいきます。初期の段階においても、研究者の視野の彼方には常にヒトの姿が写ってはおりますが、研究結果そのものをそのままヒトに当てはめる事はしません。十分に限界を知っているからです。

先のハムスターを用いた魚粉のお焦げの実験ですが、古い仕事ですので、残念ながら当該の文献を見つける事が出来ませんでした。仕方がないので、たぶんこういう事だろうと、センセの頭の中で「再現実験」して見ました。以降はセンセの頭の中の空想の実験経過です。


肉や魚のお焦げから得られた発ガン物質をネズミに投与すると、ガンが発生する事が分かっている。
次に行うべき事は、実際にお焦げを与えた場合はどうなるのか、調べる事だ。
どれぐらいの量のお焦げを、どのぐらいの期間食べればガンが発生するのか、
それが分かれば上出来だ。
けれどもヒトを用いてこの実験を行うわけにはいかない。何らかの動物を用いて行うしかない。
本当はチンパンジーを使って実験したいが、予算も無いし、何よりも人道的に、
いや、猿道的に許されない。
仮にチンパンジーを使う事が出来たとしても、結果が出るのは何十年も先の事になるだろう。
それもまずい、、、。
ここは取りあえずネズミを使おう。
ネズミにもラットやマウス、ハムスターやモルモットやスナネズミなど、色々な種類があるし、
マウスなどはC57BL だのBALB/C だの色んなヤツがあるが、どうするかな、、、。
実験目的を考えれば、ヒトの代謝系に最も近いものでやりたいな。
けれども今は昭和56 年だから、そんな事が良く分かっている時代じゃないしな、、、。
お、オリビア・ニュートンジョンの「フィジカル」がFEN から流れてきたぞ!
フィジカル、フィジカル・・・・
ええっと、さてと、、、。
今の段階では、そこまでの仕事は出来ないな。
ともかくどのネズミでも良いから実験して、結果を出しておく事が大事だ。
それが否定的であれば、それはそれで
そのネズミでは良い反応を示す事は無かった、と言う事実が明らかになるからな!
それだけでも大きな進歩だ!
よし、俺はハムスターが好きだから、まずはハムスターでやって見よう!


と言うカンジでハムハムクンを用いて実験しました(センセの空想ですよ!衛生試験場の先生が本当にそう考えたかどうかは知りませんよ!)。

で、結果は、「ヒトがお茶碗一杯ぐらいのお焦げを毎日一生食べ続けるぐらいの量を与えないとハムスターはガンにならない」と言う事が分かりました。これで十分だと思います。立派な結果です。

この実験結果から言える事は、「ハムスターに魚粉由来のお焦げをたくさん与えても、なかなかガンには成らない」と言う事です。この実験結果から、「ヒトは、魚粉由来のお焦げを死ぬほどたくさん食べても、ガンにはならない」と言う結論を導く事は出来ません。

この実験結果から「魚粉由来のお焦げをヒトが死ぬほどたくさん食べてもガンにはならない」と言う結論を導くためには、「ハムスターの代謝系はヒトの代謝系に極めて近似しているので、代謝系が関与するヒトのイベントはハムスターで代替出来る」と言う事があらかじめ証明されていなくてはなりません。けれどもその様な事実は見あたりません。

従いまして、この実験結果からこれ以上の議論を引き出す事は出来ません。

それにしてもハムハムクン、20% のお焦げ入りの餌を死ぬまで食べさせられていたなんて・・・・お焦げ好きのヒトは別として・・・・合掌・・・・ナムナム・・・・・。

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