学会報告-15

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梅雨前線のただ中にある坂城ですが、みなさまカビが生えてはおりませぬか?

さて、雨も中休み、五月晴れとなった先月の 18~19 日、東京の江戸川区で行われた第 23 回腸内細菌学会に行ってまいりましたので、ご報告いたします。

みなさまもご存知のように、近年、腸内細菌に対する注目度は非常に高く、関連する論文数も増加の一途をたどっています。生体に対する腸内細菌叢の関与は従来の「おなかの調子を整える」一辺倒ではすでになく、炎症性腸疾患や糖尿病、あるいはリウマチに代表される自己免疫疾患など、様々な疾病との関連性が精力的に研究されつつあります。
また、最近では、腸内細菌と脳神経系との関連にも注目が集まり、アルツハイマー病やパーキンソン病、あるいはうつ病や自閉症との関連に関しても活発に調べられつつあります。

今回の腸内細菌学会は「腸内細菌と健康:消化管を起点とした宿主の恒常性の維持」をメインテーマとし、一日目は一般演題を、二日目には脳神経との関連に関するシンポジウムが執り行われました。


さて、乳酸菌や麹菌などの機能性を主体に研究を行っている喜源バイオジェニックス研究所ですが、これらは当然腸内細菌叢とも関連しますので、センセも常日頃から関連論文に関しては、チェックおさおさ怠りません。
で、そのようなチェックを通して個人的に感じつつあったことですが、「最近の腸内細菌学って、一般的には隆盛だけど、学術的には壁にぶつかりつつあるんじゃないのかなあ~?」ということです。
で、今回の学会ですが、初めに大会会長の挨拶があり、その中でグラフを示して「腸内細菌に関する論文はこんなに増加しつつある!」と威勢よく述べておられましたが、客観的に見ると、どうみても論文数は天井を打ちつつある、としか思えませんでした。このまま推移すると、たぶん、徐々に減少していくようなカンジです。

で、二日間にわたる討議を通して感じたことは、「ここ10 年間の腸内細菌学の進歩により、腸内細菌は単に消化管にただ居るだけの存在ではなく、生体の恒常性維持に関して積極的な役割を果たしていることは、確かに分かった。一方で、いまだどのような菌がどのようなイベントに対してどのようなメカニズムを介して働いているのか、少数の例外はあるものの、はっきりとした答えは出ていない。また、仮にそのような菌の特定がなされたとしても、その菌に効率よく働いてもらうためにはどうすればよいのか、具体的方法を示すにはほど遠い。さらには、気が遠くなるような膨大なDNA のデータに基づいた解析の結果、腸内細菌と何らかのイベント(何でもよいのです)との「相関」があることは分かった。けれどもそのイベントとの「因果関係」に関してはいまださっぱり分からない、というのが現状であるなあ~。」ということです。

早い話が、「腸内細菌は原因なのか?結果なのか?」という数十年来の根源的な問いかけに対して、現状では、いまだ不透明な返事しかできていません(個人的には、原因~結果に加えて「介在」という概念を加えるべきだ、と思っています)。

さらに追い打ちをかけるかのように、つい最近、アメリカのFDA (食品医薬品局)が、最近はやりの「糞便移植」に対して待った!をかけました。
糞便移植に関しては「学会報告-12」でもお知らせしましたが、クロストリジウム・デイフィシル菌による偽膜性腸炎に対して非常に有効な治療法です。

今回のFDA による「待った!」の背景には、米国での糞便移植治療による死者の発生があります。ドナー側の糞便中に「薬剤耐性菌」が存在していたことが原因だと考えられています。通常、糞便移植を行うときには、薬剤耐性菌の存在を含め、種々の病原菌の排除が必須だと思われますが、何らかの失宜によりそのまま投与してしまった、とのことでした。


基本、食生活を主体とした生活習慣の違いによって国家~民族間の違いが顕著に見られる腸内細菌叢のパターンですが、そのような事実を踏まえた場合、「良い」腸内細菌パターンや「悪い」腸内細菌パターンとは何なのか、基本的定義すらおぼつかなくなってしまいます。
「日本人にとって良いパターン」とか、「欧米人にとって悪いパターン」とかで定義する方向性に向かうのでしょうが、そうなりますと食~遺伝的背景~生活習慣の三者(あるいは「歴史」も含まれてしまうかも)が腸内細菌パターンに関連し、変数が増えますので、今後の腸内細菌学、まだまだいばらの道が続きそうです。

次回以降は具体的な演題の内容について、お話いたします。





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このページは、喜源テクノさかき研究室が2019年6月30日 09:42に書いた記事です。

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