お焦げとガンについて-19

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動物は、ヒトの完全な代用となる事は出来ない-2

動物実験の結果を鵜呑みにしているととんでもない結果が生じる事の好例を、もう一つ挙げたいと思います。

数年前、大阪の中小の印刷工場で働いていた作業員の間で多くの胆管ガン患者が発生し、多数の死者が出たのをご記憶の方も多いかと思います。胆管ガンというのは文字通り胆管に出来るガンで、この事件以前には殆ど耳にする機会も無かった様な稀なガンです。丁度、アスベスト被害で中皮腫と言うガンが有名になった件を彷彿とさせますね。

この胆管ガンの原因となったと目されている物質が、印刷工場のローラー洗浄に使われていた有機溶媒のジクロロプロパン(正確には1,2-ジクロロプロパン)とジクロロメタンです。

IARC と言うガンの国際機関の基準によると、それでも一応ジクロロメタンの方はグループ2B、即ち「ヒトに対して発ガン性があるかも?」に分類されますが、ジクロロプロパンに至ってはグループ3、即ち「ヒトに対して発ガン性がある物質には分類されないよ」と言う判定です(1999年)。IARC 以外にも色々な機関や学会の判定がありますが、明確に「発ガン物質である!」と断定したものは皆無です。その理由は、動物実験での結果が実に曖昧模糊としているのに加え、疫学的にも因果関係が不透明であるためです。

因みにベンゾピレンはIARC 基準ではグループ1 、即ち「ヒトに対して発ガン性がある!」と断定されていますし、HCA の一つであるIQ はグループ2A 、即ち「ヒトに対して、恐らく、発ガン性がある」に分類されています。

ジクロロプロパンやジクロロメタンの発ガンメカニズムですが、これらもHCA やベンゾピレンと同じく、ヒトの代謝酵素によって変化を受け、発ガン物質となります。HCA の時に説明したCYP 酵素も関与しますが、その他にグルタチオントランスフェラーゼ(GST)酵素が関与し、GST のアイソザイムであるGSTT-1 が胆管上皮細胞に分布しますので、これに反応して発ガン性を有する様になる、と思われます。最終的にはHCA と同じようにDNA の付加体を形成し、変異原物質として働くと考えられます。

動物実験では動物種の違いによる差が明瞭で、実験方法によって異なるのですが、例えばジクロロメタンの場合では一般的にマウスの方がラットより感受性が高い一方で、ハムスターは殆ど反応しません

さて、この様に殆ど警戒されていなかったジクロロプロパンとジクロロメタンですが、現実には上記の様な悲惨な結果を引き起こしてしまいました。もちろん印刷工場の換気の悪さなど管理に落ち度があったのは確かですが、それでも、最大の原因の一つが、両物質の発ガン性に対する認識の甘さにあった事は明らかだと思います。そしてその認識の甘さの原因がIARC 等の国際基準での両物質の位置づけにあり、そしてその位置づけの最大の原因が、両物質は動物実験で明瞭な結果を示さない、と言う事実にある事がおわかりになったかと思います。
より詳しく見ていけば、特にジクロロメタンの場合には実験方法によってはより低濃度で発ガン性を示す様になるのですが、その他の実験を加味して総合的に判断されますので、2B の判定となっているのかも知れません。この点、詳しい事は分かりません。

さて、ジクロロプロパンとジクロロメタンの吸入暴露によって引き起こされた胆管ガン事件に関しては、もう一つ言及しておかなくてはならない大事な点があります。それは、亡くなられた患者さんの多くがタバコを吸っていた、と言う事実です(第20回 日本がん予防学会 2013年)。
死亡した患者さんのうち正確に何人が喫煙者であったか、忘れてしまいましたが、相当数の方がそうでした。
ここから導く事の出来る大事な点は、タバコを含む、環境からの他の因子が、主要因子の発ガン性を相加的~相乗的に増幅している可能性が大いにある、と言う事です。「複合汚染」と言う言葉が適切かも知れません。仮にこれが正しいとした場合、タバコはタバコ、お酒はお酒、焼き肉は焼き肉、と言う風に個別に考えていると、知らないうちに取り返しの付かない事になるかも知れません。例えば既に大きな因子に暴露されているヒトにとっては、大陸から渡ってきたPM2.5 が「馬の背中に乗せた荷物の最後の一本のわらしべ」となる可能性すら全く無いとは言えません。
「馬の背の最後の一本のわらしべ」と言う言葉がどの様な意味であるのか、どうぞ個人個人で考えて下さい。この考え方は、発ガンを語る上でとても重要な概念です。

よくお医者さんなどが「この程度の量でしたら問題無いでしょう。」等と言っているのをTV 番組などで見かけたりしますが、「この程度の量」がそれぞれのシロモノに乗じられると、いつのまにか全体の量が閾値(いきち)を超えていた、などと言うことも考えられます。閾値と言うのは、「これ以上は危ないよ!」と言う地点です。

いずれにしましても、動物を用いた実験結果を鵜呑みにし、そのまま無批判にヒトに当てはめる事だけは止めていただきたいと、心より思います。


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このページは、喜源テクノさかき研究室が2014年5月 2日 09:10に書いた記事です。

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